「ヒロくんお待たせ」
「大丈夫でしたか?」
「うん。無事買えました」
藍子先輩は嬉しそうに手に持ったレジ袋を俺に見せると、袋を開けて何かを取り出すと俺に渡してくる。
「お礼。コーラのグミがレジの隣に置いてあったから」
「そんないいのに…」
「買い物に付き合ってくれたお礼と、ジュースのお返し」
「有り難く受け取ります」
「ふふっ、はいどうぞ」
コーラグミを受け取った俺は嬉しくてまじまじと見てしまった。
先輩はそんな俺の姿に「ただのグミだよ?」と笑って言う。
それでもなぜか嬉しかった。
心が暖かくなる感じがする。
俺はもう一度先輩にお礼を言うと、今度は照れたように「もういいよ」と目を逸らした。
「次は本屋さんですか?」
「うん。小説が見たくて…。時間大丈夫?」
「はい。まだまだ大丈夫です」
「近くに書店があるからそこに行こう」
「わかりました」
俺はグミをカバンの中に大切に入れて先輩と書店へ向かう。
駅前周辺ということもあり、数分歩けば書店は見えてきた。
何気にここには入ったことがない。
そもそも本を読む習慣がないから、本を買うことなんて全くなかった。
「先輩ってよく本屋さんに来るんですか?」
「いつもはフリマアプリで買ってるかな。今日は特別」
「なるほど」
「すぐ終わると思うから」
「ゆっくりでいいですからね」
「ありがとう」
書店へ入るとまた空気が変わる。
涼しいのは当たり前なのだが、紙の香りが鼻を通った。
図書室と同じ香りだ。
先輩は特に悩むことなく小説コーナーへ進む。
買うものは決まっているのだろうか。
俺は後ろを着いて行きながら並べられた本を見る。
雑誌や付録が置いてあったり、文房具が売ってある場所もあった。
たまには来ない店にに訪れるのもいいものだなと思う。
静かだし、ふらふらと見てみるのも楽しい。
先輩が立ち止まったと思ったら1冊の本を本棚から取り出した。
「これが読みたかったの」
「どんなお話なんですか?」
「アイドルの人が書いた小説だよ。実話も含められているからこれは絶対に買おうって決めてたんだ」
「おすすめって書いてありますね。作者は…わからないな」
「ヒロくんも知らないんだ。私もこの人初めて知ったけど、元エースの方らしいよ」
「元ってことは今はアイドルではないと言うことですか?」
「去年卒業しちゃったらしい。卒業後から書き始めたみたいで先週あたりに発売されたんだよね」
「へー、凄いな…」
「面白かったら貸そうか?」
「え?いいですよ。先輩が買ったものだから」
「だって同盟としては共有したいじゃん?」
「まぁ、そうですけど…」
「先輩命令って言ったら?」
「ずるいです」
「今回は私が譲らないよ?お会計してくるね」
「はい、わかりました」
いつの間にか先輩の流れに流されてしまった俺。
先輩命令という歳の必殺技を使われては何も言えない。
たぶん、藍子先輩なら面白くなくても貸してくれるんだろうなと俺は少し先の未来を予測していた。
また先輩に着いていくように会計場所付近で待つ。
今回も問題なく終わったようで、満足そうな表情をして帰ってきた。
「ありがとう。これで目的達成」
「よかったです。俺も楽しめました」
「本当?そう言ってくれると嬉しいよ」
「次は何かありますか?行きたいところとか…」
「ねぇ、もう1回さっきの場所に戻らない?日差しも弱くなってきたし、今の時間帯ならまだ人通りも少ないと思うから」
「俺はいいですよ。また歌うんですか?」
「うーんと、ちょっとね…」
歯切れの悪い返事をした先輩。
少し違和感を感じて俺は心配になるが、特に震えや表情が暗くなっているとかはなかった。
不思議に思う俺を連れて行くように先輩は「行こう?」と言って前を歩く。
俺は慌てて隣に並んでカラオケ店の前に向かって歩き出した。
道中、先輩は何かを考え込んでいるようで話しかけてもワンテンポ遅く返ってくる。
体調が悪いのだろうかと不安になってくる俺を見透かしたように「大丈夫」と言ってくる先輩の言葉で俺は何も言えなかった。
ーーーーーー
また路地裏のカラオケ店の前に到着すると、先輩はそのまま日陰が差す階段へと向かって行った。
まだ歌わないようで俺も一緒に階段に座る。
「先輩…?」
ここまでの道のりずっと自分からは喋らなかった先輩。
俺は不安の限界で隣に座り、顔を見た。
「大丈夫ですか?」
「ごめんね。大丈夫。考え事と反省会していたの」
「反省会…?」
「私の悪い癖になるのかな。なんでも行動を反省しちゃうって言うか…。思い返して、ああすればよかったとか考えちゃう」
「そうなんですか…。でも反省する場所ありました?」
「お会計の時と、話すタイミングを逃した」
「お会計普通だと思いますけど…。話すタイミングっていうのはなんですか?」
「お会計はもっとスマートにやりたかったけど、久しぶりの対面での会計だったから緊張しちゃって……。話すタイミングっていうのは、その…」
先輩は俺から目を逸らして言葉を考えているようだった。
俺は先輩を見つめたまま待つ。
圧をかけている訳ではないが、気になって仕方ない。
そもそも会計の反省会をしていたなんて真面目すぎないかと思ってしまう。
1分もなかった会計を思い返すなんて俺は絶対にやったことはない。
どうせ定員側も俺のことなんて覚えてないし、先輩が常連でない限りは頭の片隅にさえないだろう。
それも藍子先輩の性格上やってしまうのだろうか。
そんな風に考えていると先輩は急に俺の方を振り向く。
意外と近い距離に驚いた俺は顔を後ろに引いてしまった。
ジッと俺の目を見る先輩はついに口を動かす。
「ヒロくん、何かあったの?」
「大丈夫でしたか?」
「うん。無事買えました」
藍子先輩は嬉しそうに手に持ったレジ袋を俺に見せると、袋を開けて何かを取り出すと俺に渡してくる。
「お礼。コーラのグミがレジの隣に置いてあったから」
「そんないいのに…」
「買い物に付き合ってくれたお礼と、ジュースのお返し」
「有り難く受け取ります」
「ふふっ、はいどうぞ」
コーラグミを受け取った俺は嬉しくてまじまじと見てしまった。
先輩はそんな俺の姿に「ただのグミだよ?」と笑って言う。
それでもなぜか嬉しかった。
心が暖かくなる感じがする。
俺はもう一度先輩にお礼を言うと、今度は照れたように「もういいよ」と目を逸らした。
「次は本屋さんですか?」
「うん。小説が見たくて…。時間大丈夫?」
「はい。まだまだ大丈夫です」
「近くに書店があるからそこに行こう」
「わかりました」
俺はグミをカバンの中に大切に入れて先輩と書店へ向かう。
駅前周辺ということもあり、数分歩けば書店は見えてきた。
何気にここには入ったことがない。
そもそも本を読む習慣がないから、本を買うことなんて全くなかった。
「先輩ってよく本屋さんに来るんですか?」
「いつもはフリマアプリで買ってるかな。今日は特別」
「なるほど」
「すぐ終わると思うから」
「ゆっくりでいいですからね」
「ありがとう」
書店へ入るとまた空気が変わる。
涼しいのは当たり前なのだが、紙の香りが鼻を通った。
図書室と同じ香りだ。
先輩は特に悩むことなく小説コーナーへ進む。
買うものは決まっているのだろうか。
俺は後ろを着いて行きながら並べられた本を見る。
雑誌や付録が置いてあったり、文房具が売ってある場所もあった。
たまには来ない店にに訪れるのもいいものだなと思う。
静かだし、ふらふらと見てみるのも楽しい。
先輩が立ち止まったと思ったら1冊の本を本棚から取り出した。
「これが読みたかったの」
「どんなお話なんですか?」
「アイドルの人が書いた小説だよ。実話も含められているからこれは絶対に買おうって決めてたんだ」
「おすすめって書いてありますね。作者は…わからないな」
「ヒロくんも知らないんだ。私もこの人初めて知ったけど、元エースの方らしいよ」
「元ってことは今はアイドルではないと言うことですか?」
「去年卒業しちゃったらしい。卒業後から書き始めたみたいで先週あたりに発売されたんだよね」
「へー、凄いな…」
「面白かったら貸そうか?」
「え?いいですよ。先輩が買ったものだから」
「だって同盟としては共有したいじゃん?」
「まぁ、そうですけど…」
「先輩命令って言ったら?」
「ずるいです」
「今回は私が譲らないよ?お会計してくるね」
「はい、わかりました」
いつの間にか先輩の流れに流されてしまった俺。
先輩命令という歳の必殺技を使われては何も言えない。
たぶん、藍子先輩なら面白くなくても貸してくれるんだろうなと俺は少し先の未来を予測していた。
また先輩に着いていくように会計場所付近で待つ。
今回も問題なく終わったようで、満足そうな表情をして帰ってきた。
「ありがとう。これで目的達成」
「よかったです。俺も楽しめました」
「本当?そう言ってくれると嬉しいよ」
「次は何かありますか?行きたいところとか…」
「ねぇ、もう1回さっきの場所に戻らない?日差しも弱くなってきたし、今の時間帯ならまだ人通りも少ないと思うから」
「俺はいいですよ。また歌うんですか?」
「うーんと、ちょっとね…」
歯切れの悪い返事をした先輩。
少し違和感を感じて俺は心配になるが、特に震えや表情が暗くなっているとかはなかった。
不思議に思う俺を連れて行くように先輩は「行こう?」と言って前を歩く。
俺は慌てて隣に並んでカラオケ店の前に向かって歩き出した。
道中、先輩は何かを考え込んでいるようで話しかけてもワンテンポ遅く返ってくる。
体調が悪いのだろうかと不安になってくる俺を見透かしたように「大丈夫」と言ってくる先輩の言葉で俺は何も言えなかった。
ーーーーーー
また路地裏のカラオケ店の前に到着すると、先輩はそのまま日陰が差す階段へと向かって行った。
まだ歌わないようで俺も一緒に階段に座る。
「先輩…?」
ここまでの道のりずっと自分からは喋らなかった先輩。
俺は不安の限界で隣に座り、顔を見た。
「大丈夫ですか?」
「ごめんね。大丈夫。考え事と反省会していたの」
「反省会…?」
「私の悪い癖になるのかな。なんでも行動を反省しちゃうって言うか…。思い返して、ああすればよかったとか考えちゃう」
「そうなんですか…。でも反省する場所ありました?」
「お会計の時と、話すタイミングを逃した」
「お会計普通だと思いますけど…。話すタイミングっていうのはなんですか?」
「お会計はもっとスマートにやりたかったけど、久しぶりの対面での会計だったから緊張しちゃって……。話すタイミングっていうのは、その…」
先輩は俺から目を逸らして言葉を考えているようだった。
俺は先輩を見つめたまま待つ。
圧をかけている訳ではないが、気になって仕方ない。
そもそも会計の反省会をしていたなんて真面目すぎないかと思ってしまう。
1分もなかった会計を思い返すなんて俺は絶対にやったことはない。
どうせ定員側も俺のことなんて覚えてないし、先輩が常連でない限りは頭の片隅にさえないだろう。
それも藍子先輩の性格上やってしまうのだろうか。
そんな風に考えていると先輩は急に俺の方を振り向く。
意外と近い距離に驚いた俺は顔を後ろに引いてしまった。
ジッと俺の目を見る先輩はついに口を動かす。
「ヒロくん、何かあったの?」