【完結】僕の恋を終わらせるか、君の夢を終わらせるか

10分ほど休んでも俺達はその場から動かなかった。

正午を過ぎて13時くらいになる。

1日で1番暑い時間帯だ。

それにカラオケ店の前には日陰が出来にくい。

暑い日差しの中で歌うのは大変だろう。

藍子先輩も動く様子は全くなく俺達は話しながらジュースを飲んでいた。



「暑いですね…」

「うん…。今日は日差しがいつもより強い気がする」

「先輩はまだ歌いますか?」

「歌う予定だったけど、今日は終わろうかなって思ってきた」

「そうですか…」



俺はただ単に先輩に会いに来ただけだ。

もう先輩が歌わないのであれば帰るしか選択はない。

それとも先輩を誘ってどこかカフェにでも行こうか。

しかし、友達とはいえ男と2人でカフェなんて嫌だろうし…。

俺は迷いに迷って黙ってしまった。



「ヒロくんはどうするの?」

「えっ、ああ、どうしようかなって」

「そっか…」



この会話の中で誘えばよかったかもしれない。

でも終わってしまった今では後悔だ。

2人して沈黙になる。

ほんわか雰囲気は気まずさ雰囲気に変わっていった。

話が途切れるだけでここまで焦ってしまうとは予想外だ。

悟や光流相手なら絶対に沈黙になっても雰囲気は崩れない。

そもそも沈黙にならない。

口では黙っている俺だけど頭の中ではベラベラと喋ってどうするか作戦を立てていた。

持っているコーラは緩くなって、日差しはさらに強くなる。

蒸し蒸しするというよりもギラギラする暑さだ。



「先輩」

「何?」

「ひとまずここから離れませんか?」

「…それがいいかもね。熱中症になったら大変だし」



俺がかけた言葉は誘いにも何にもならない言葉だった。

先輩はそれに賛成して立ち上がる。

俺も釣られて立ち上がると先に階段から降りた先輩がこっちを向く。

自然と上目遣いになっていて俺が下を向いて先輩を見る形になった。

まるで初めてお喋りした時、俺が膝をついて話したように。



「ヒロくん。予定ある?」

「俺は特にないです」

「なら付き合って」

「え?何にですか?」

「CDショップと本屋さん」



先輩は首を軽く傾げて俺を誘ってくれた。

その言葉に嬉しくなった俺は階段を降りて「ぜひ!」と元気よく答える。

それを聞いた先輩は笑って「よかった」と言った。

俺は緩くなったコーラを全て飲み干して近くの自販機のゴミ箱に捨てる。

先輩も完飲してくれたようで一緒に捨てていた。



「それじゃあ行こうか?」

「はい!」



日差しの暑い土曜日。

俺は初めて藍子先輩と買い物に行く。

日陰を求めて歩きながら、お店まで行く道のりはとても楽しかった。



ーーーーーー



駅前にあるCDショップは休日の午後ということもあり賑わっている。

友達やカップルで来ている若い客が多かった。

ここには俺も来たことがあるし、藍子先輩も知っているようで迷うことなくたどり着く。

向かう先はやはりアイドル曲のコーナーだった。

先輩は他のアイドルのCDはスルーしてamaの名前を探す。



「先輩、ありました」

「本当だ。ありがとう」



先輩よりも早く見つけた俺は指を差して場所を教える。

デビュー曲からベストアルバムが揃ってあった。



「せっかくだから1枚くらい買っておこうかなって」

「それじゃあどのシングルにしますか?」

「デビュー曲も外せないし、3枚目の曲も好きなんだよなぁ…」



手を顎に当てて悩んでいる先輩。

俺はどれも1枚ずつ持っているから買う必要はない。

それでも並ぶamaのCDを見るのは楽しかった。



「ゆっくりでいいですよ。時間は沢山あるので」

「ありがとう。ヒロくん、他に見たいところあったら見ていていいよ?」

「いや、せっかく先輩と一緒だからここに居ます」



先輩が誘ってくれたから離れるわけにはいかないと、言った瞬間は思ったが後々考えてこの選択で良かったと思う。

人が怖く感じる先輩を1人にしたら最悪パニックになってしまうかもしれない。

それだったら最初から側に居てあげたほうが安全だ。

俺も他の段を見ていると先輩が俺の肩をちょんと突っつく。

振り向くと1枚のCDが握られていた。



「これにするよ」

「デビュー曲ですね。やっぱりそこから集めたほうが順番的に良いかもしれません」

「ヒロくんがそう言ってくれるなら正解だね。じゃあ、お会計してくる」

「なら俺はレジ近くの特集コーナー見てます」



先輩が買うCDが決まったところでレジに向かう。

俺は途中で離れて特集コーナーを見に行く。

ポップなイラストと文字が書かれた紙が貼り付けてあったが、全く知らない男性アイドルで見ていて少しつまらない。

俺はコーナーを見ているフリして先輩が大丈夫か確認すると、お金を渡している先輩は特に震えた様子もなくいつも通りだった。

ホッとした俺は先輩をチラ見していたのをバレないように、すぐ特集コーナーに目線を戻した。