金曜日のお昼休み。
保健室は和やかな雰囲気だった。
私の目の前にはテーブルを挟んでヒロくんがお弁当を持って座ってる。
今回は時間が間に合うようにと、話しながらちょくちょくおかずやご飯を摘んでいた。
「ヒロくんはamaのCD全部持ってるの?」
「シングルごとに1枚は持っています。他のアイドルはスマホの音楽アプリで聴いているんですけどね」
「私よりも熱烈的なファンだね」
「でも藍子先輩に初めて会った日にamaの曲を聞いて、久しぶりに思い出したくらいだから熱烈的ではないかもしれません」
「忘れてるのはダメだよー」
昼休みでさえ静かな保健室は今日で一転した。
私とヒロくんの話し声と笑い声が明るさを満たしていく。
たぶんここに紗凪先生も加わったらもっと賑やかになるだろう。
「amaは活動休止してるけど、いつかは再開して欲しいですよね」
「そうだね。その時はライブに行ってみたいな」
「なら俺と行きましょう?ama同盟として」
「いいね。同盟組もうか」
「握手会みたいなイベントもあれば良いんですけどね…」
「amaは歌一筋だから…。ヒロくんは他のアイドルで握手会は行かないの?」
「んー。俺は個別に推すよりも箱推しなので行かないですね。行くとしてもライブくらいです。藍子先輩は?」
「私は勇気が出なくてイベントごとには参加したことない」
「確かに最初は緊張しますよね。古参が沢山いるし。でも行っちゃえば満足感凄いですよ」
「それなら考えてみようかな。でもama以外のアイドルはよくわかってないんだけど」
「なら俺が候補的なものを紹介しますよ」
本当にアイドルの話が好きなんだと伝わるくらい笑顔になるヒロくん。
人の太陽だなと笑顔になるたびに実感する。
それでも私はヒロくんの目を逸らさなかった。
数日前までの私とは違う。
少しの変化が凄く嬉しい。
この1週間短いけど、成長できた濃い日々だった。
ヒロくんは続けてアイドルの話をする。
私から話を持ち出すのは苦手だから、こうやって話しかけてくれるのはありがたい。
ほとんどが共通点であるamaの話だけど、ここに来る前に色々と話題を考えてきてくれたのかなと思うと心が温かくなる。
「amaって結構メジャーなソロアイドルだから知ってる人が少ないんですよ」
「確かにそうだね。地上波でもそこまで頻繁に出なかったし」
「そうなんです!だから……あっ」
「予鈴だね」
「やべっ、次体育だ」
ヒロくんの言葉と同時に予鈴が学校に鳴り響く。
次の時間が体育と思い出したヒロくんは慌ただしくお弁当を片付け始めた。
「ヒロくん、ふりかけの袋落ちてる」
「あっ、ありがとうございます!それじゃあ藍子先輩。次は……月曜日ですね!」
「うん。待ってるね」
「はい!先輩が好きそうなアイドルを探してきます!」
「ありがとう。早く行かないと着替え出来ないんじゃない?」
「やば、それじゃあ!」
「またね」
1人出て行っただけで保健室は静かになった。
いつも通りといえばいつも通りなのだが、少し寂しく感じる。
友達の存在はここまで大きいものなんだと思った。
高校では友達と呼べる人がいない私は教室に居たって1人だった。
だから保健室登校になっても私の元に来る人は居ないし、クラスの人が用事でここに来ても頭を軽く下げるだけで話すことなんてなかった。
中学までは上手くやれていたのになと私は思いながら窓の外を見る。
すると保健室の扉が開き、職員室に行っていた紗凪先生が戻ってきた。
「どうだった〜?」
「楽しかったです。あの、ありがとうございます。席外してもらっちゃって」
「大丈夫よ。例え九音くんが来なくても今日はやることがあったから。でも良かった。藍子ちゃんの笑顔が見れて」
「ふふっ、ありがとうございます」
「どうする?今日は帰る?」
「えっと……まだ少し居ます」
「そっか。わかった。もし帰る時は言ってね」
「はい」
紗凪先生はいつものように笑って自分の机の椅子に座る。
私は窓の外を見た。
さっきまでは誰も居なかった校庭に生徒達が集まる。
ヒロくんのクラスかはわからないけど、少し見ていたかった。
もしヒロくんのクラスだったら良いなぁと軽い気持ちで。
「何の話したの?」
「ほとんどアイドルの話です」
「藍子ちゃんアイドル好きなんだ」
「は、はい。言ってませんでしたよね」
「うん。初めて聞いた。でもそっか〜アイドルか〜。いいね〜」
頬に手を当てて羨ましがる先生。
まるで乙女のようで笑ってしまった。
とてもその姿が似合っていたから。
「九音くん。良い子でしょ?」
「はい、凄く」
「私もそこまで喋ったことはないけどね。でも礼儀正しいから先生達も褒めていたのを聞いたことがある」
「確かにそうですね」
思い返せばお辞儀が綺麗だった。
ピシッとした動きはロボット味があったけど。
手を差し出して友達になってほしいと言われた時も綺麗だった。
綺麗といえばヒロくんの手。
女性の私から見ても細くて白くてスラっとしている。
私はふと、自分の手を見てみたけどヒロくんほどスラっとはしていないし色白ではない。
もしかしたら何か秘訣があるのかもしれない。
月曜日に聞けたら聞いてみよう。
私はまた窓から校庭を眺める。
学年もクラスも全くわからないけど楽しそうに動いている人達を見て、私はなんだか満足感があった。
保健室は和やかな雰囲気だった。
私の目の前にはテーブルを挟んでヒロくんがお弁当を持って座ってる。
今回は時間が間に合うようにと、話しながらちょくちょくおかずやご飯を摘んでいた。
「ヒロくんはamaのCD全部持ってるの?」
「シングルごとに1枚は持っています。他のアイドルはスマホの音楽アプリで聴いているんですけどね」
「私よりも熱烈的なファンだね」
「でも藍子先輩に初めて会った日にamaの曲を聞いて、久しぶりに思い出したくらいだから熱烈的ではないかもしれません」
「忘れてるのはダメだよー」
昼休みでさえ静かな保健室は今日で一転した。
私とヒロくんの話し声と笑い声が明るさを満たしていく。
たぶんここに紗凪先生も加わったらもっと賑やかになるだろう。
「amaは活動休止してるけど、いつかは再開して欲しいですよね」
「そうだね。その時はライブに行ってみたいな」
「なら俺と行きましょう?ama同盟として」
「いいね。同盟組もうか」
「握手会みたいなイベントもあれば良いんですけどね…」
「amaは歌一筋だから…。ヒロくんは他のアイドルで握手会は行かないの?」
「んー。俺は個別に推すよりも箱推しなので行かないですね。行くとしてもライブくらいです。藍子先輩は?」
「私は勇気が出なくてイベントごとには参加したことない」
「確かに最初は緊張しますよね。古参が沢山いるし。でも行っちゃえば満足感凄いですよ」
「それなら考えてみようかな。でもama以外のアイドルはよくわかってないんだけど」
「なら俺が候補的なものを紹介しますよ」
本当にアイドルの話が好きなんだと伝わるくらい笑顔になるヒロくん。
人の太陽だなと笑顔になるたびに実感する。
それでも私はヒロくんの目を逸らさなかった。
数日前までの私とは違う。
少しの変化が凄く嬉しい。
この1週間短いけど、成長できた濃い日々だった。
ヒロくんは続けてアイドルの話をする。
私から話を持ち出すのは苦手だから、こうやって話しかけてくれるのはありがたい。
ほとんどが共通点であるamaの話だけど、ここに来る前に色々と話題を考えてきてくれたのかなと思うと心が温かくなる。
「amaって結構メジャーなソロアイドルだから知ってる人が少ないんですよ」
「確かにそうだね。地上波でもそこまで頻繁に出なかったし」
「そうなんです!だから……あっ」
「予鈴だね」
「やべっ、次体育だ」
ヒロくんの言葉と同時に予鈴が学校に鳴り響く。
次の時間が体育と思い出したヒロくんは慌ただしくお弁当を片付け始めた。
「ヒロくん、ふりかけの袋落ちてる」
「あっ、ありがとうございます!それじゃあ藍子先輩。次は……月曜日ですね!」
「うん。待ってるね」
「はい!先輩が好きそうなアイドルを探してきます!」
「ありがとう。早く行かないと着替え出来ないんじゃない?」
「やば、それじゃあ!」
「またね」
1人出て行っただけで保健室は静かになった。
いつも通りといえばいつも通りなのだが、少し寂しく感じる。
友達の存在はここまで大きいものなんだと思った。
高校では友達と呼べる人がいない私は教室に居たって1人だった。
だから保健室登校になっても私の元に来る人は居ないし、クラスの人が用事でここに来ても頭を軽く下げるだけで話すことなんてなかった。
中学までは上手くやれていたのになと私は思いながら窓の外を見る。
すると保健室の扉が開き、職員室に行っていた紗凪先生が戻ってきた。
「どうだった〜?」
「楽しかったです。あの、ありがとうございます。席外してもらっちゃって」
「大丈夫よ。例え九音くんが来なくても今日はやることがあったから。でも良かった。藍子ちゃんの笑顔が見れて」
「ふふっ、ありがとうございます」
「どうする?今日は帰る?」
「えっと……まだ少し居ます」
「そっか。わかった。もし帰る時は言ってね」
「はい」
紗凪先生はいつものように笑って自分の机の椅子に座る。
私は窓の外を見た。
さっきまでは誰も居なかった校庭に生徒達が集まる。
ヒロくんのクラスかはわからないけど、少し見ていたかった。
もしヒロくんのクラスだったら良いなぁと軽い気持ちで。
「何の話したの?」
「ほとんどアイドルの話です」
「藍子ちゃんアイドル好きなんだ」
「は、はい。言ってませんでしたよね」
「うん。初めて聞いた。でもそっか〜アイドルか〜。いいね〜」
頬に手を当てて羨ましがる先生。
まるで乙女のようで笑ってしまった。
とてもその姿が似合っていたから。
「九音くん。良い子でしょ?」
「はい、凄く」
「私もそこまで喋ったことはないけどね。でも礼儀正しいから先生達も褒めていたのを聞いたことがある」
「確かにそうですね」
思い返せばお辞儀が綺麗だった。
ピシッとした動きはロボット味があったけど。
手を差し出して友達になってほしいと言われた時も綺麗だった。
綺麗といえばヒロくんの手。
女性の私から見ても細くて白くてスラっとしている。
私はふと、自分の手を見てみたけどヒロくんほどスラっとはしていないし色白ではない。
もしかしたら何か秘訣があるのかもしれない。
月曜日に聞けたら聞いてみよう。
私はまた窓から校庭を眺める。
学年もクラスも全くわからないけど楽しそうに動いている人達を見て、私はなんだか満足感があった。