「恥ずかしい部類に分けた、幼い固定概念〜」
私はあの日から週に何回かここに来るようになった。
私の頼み通り、おじさんは話しかけてこないし会うこともない。
でも時々感じるカラオケ店からの視線が私は心強かったし、心地いい。
いつしか1曲だけでなく続けて2、3曲歌えるようにもなった。
全て私の好きなアイドルのamaの曲だけど、音程も調整しながら歌えるくらいまで歌は成長した。
ここに立てば自然とスイッチが入るから恥ずかしさも少なくなってきている。
誰も立ち止まって聞く事はないけれども私はこの時間が好きになっていた。
「そんな自分が輝いている〜………ふぅ」
思い出に浸りながら2曲歌うと私は自分のスマホを見る。
時間的にもそろそろ帰ったほうがいいかもしれない。
主婦や小学生が通る時刻だ。
私は置いていた小さなバッグを持とうと屈むと視線を感じる。
「ん?」
「あっ」
ある人物と目が合って目が開く。
制服姿の九音ヒロくんだった。
私が固まって見ているとヒロくんは慌てて話す。
「すみません!たまたま通ったんです!そしたら先輩がいて…!」
「えっ、いや、その…」
「やっぱり素敵な歌声ですね!2曲聴きましたけど、amaの曲でテンション上がりました!」
「2曲って、いつからそこに…?」
「1曲目のAメロくらいからです…」
「本当に最初じゃん」
「すみませんでした!話しかけるのもあれだなと思って。今日断られたばかりなので」
「あっ紗凪先生から…?」
「はい。保健の先生から聞きました。すみません。なんか色々と」
さっきから謝ってばかりの九音ヒロくん。
隠れていた場所から動かないで遠くから話しかけてきている。
そこまで話したくないわけではないのだが。
もしかしたら少し誤解が混ざっているかもしれない。
私は立ち上がって少しだけ九音ヒロくんに近づいた。
「あの謝るのは私の方。ごめんなさい。せっかく話しかけてくれたのに」
「大丈夫ですよ。元はと言えば俺から始まった事なので」
「でも断ったのは私だから」
「いえ。強引にやったのは俺です」
「…なんでそんな譲らないの」
「俺が悪いので」
「悪くないのに…」
悪いのを一向に譲らない九音ヒロくん。
私はどうしたものかと考える。
口元に手を持ってきて考える仕草をすると私はある事に気づいた。
「手が震えてない…?」
「どうかしましたか?」
いつもなら誰か生徒と話そうとすると手が震えてしまう。
保健室に用事がある人に挨拶されるだけでも震える。
それに酷い時は声まで途切れ途切れになってしまうのだ。
けれども今の私に一切そんな症状はない。
むしろ普通に話せていた。
「あの聞きたいんだけど…」
「なんでしょう?」
「私の声変?」
「え?何でですか?全く変じゃないです!とても綺麗な声をしていますよ!」
結構真っ直ぐな答えに私は恥ずかしくなる。
「違くて、震えてない?ガラガラしてない?」
「全くです。普通ですけど…」
九音ヒロくんは私の質問に不思議に思いながらも答えてくれた。
やはり私の思い違いではないみたいで嬉しくなる。
でも思い返せば初めてちゃんとお喋りした時もそこまで震えていなかった気がした。
何でだろうと思って私の前にいる九音ヒロくんを見る。
キョトンとしている姿を見ても答えは出せなかった。
「鈴木先輩?」
「えっ何?」
「大丈夫ですか?」
「何で?」
「だって考え込んでいるようだったので…」
そこまで顔に出ていたかと私は両手で頬っぺたを包む。
そんな様子を見て九音ヒロくんは笑った。
「あー、やっぱり無理だ!」
「どうしたの?」
急に叫んだと思ったら、お手上げですという仕草をして九音ヒロくんが私の近くまで来る。
普段なら後退りしてしまうけど、不思議と私の体は動かなかった。
「俺、先輩にお喋り断られてしばらくは距離を離した方がいいって思ったんです。そう決心したんですけど…。無理でした!」
九音ヒロくんは眉を下げて笑った。
そんな姿でも私は目を細めてしまう。
目の前で眩しく輝く笑顔。
これで何回目だろう。
目を逸らしてしまいそうな眩しさ。
でも今の私は逸らしたくないと思ってしまった。
「やっぱり先輩とお喋りしたいです。勿論amaの話だってしたいし、他の話も沢山したいです。勝手な俺の考えですけど先輩はどうですか?」
「えっと……」
言葉が止まってしまう。
喉に突っかかって口まで届かない。
目の前には眩しい貴方が答えを待っている。
その姿は「何分かかっても待ちます」と言葉にしなくても意思が伝わった。
それでも私は話せずにいる。
けれど手も足も震えてはいない。
それが答えを表していた。
後は口に出して九音ヒロくんに伝えるだけ。
頑張れ、頑張れ…。
小さくても1歩を踏みださなくちゃいけない。
一言話せば、変われるから。
「私も、お喋りしたい…!」
震えなかった声。
まだ私の言葉が辺りに響いている気がする。
私は精一杯の気持ちを込めて、九音ヒロくんに伝えられた。
そんな私の目線の先には眩しすぎる笑顔が咲いていた。
私はあの日から週に何回かここに来るようになった。
私の頼み通り、おじさんは話しかけてこないし会うこともない。
でも時々感じるカラオケ店からの視線が私は心強かったし、心地いい。
いつしか1曲だけでなく続けて2、3曲歌えるようにもなった。
全て私の好きなアイドルのamaの曲だけど、音程も調整しながら歌えるくらいまで歌は成長した。
ここに立てば自然とスイッチが入るから恥ずかしさも少なくなってきている。
誰も立ち止まって聞く事はないけれども私はこの時間が好きになっていた。
「そんな自分が輝いている〜………ふぅ」
思い出に浸りながら2曲歌うと私は自分のスマホを見る。
時間的にもそろそろ帰ったほうがいいかもしれない。
主婦や小学生が通る時刻だ。
私は置いていた小さなバッグを持とうと屈むと視線を感じる。
「ん?」
「あっ」
ある人物と目が合って目が開く。
制服姿の九音ヒロくんだった。
私が固まって見ているとヒロくんは慌てて話す。
「すみません!たまたま通ったんです!そしたら先輩がいて…!」
「えっ、いや、その…」
「やっぱり素敵な歌声ですね!2曲聴きましたけど、amaの曲でテンション上がりました!」
「2曲って、いつからそこに…?」
「1曲目のAメロくらいからです…」
「本当に最初じゃん」
「すみませんでした!話しかけるのもあれだなと思って。今日断られたばかりなので」
「あっ紗凪先生から…?」
「はい。保健の先生から聞きました。すみません。なんか色々と」
さっきから謝ってばかりの九音ヒロくん。
隠れていた場所から動かないで遠くから話しかけてきている。
そこまで話したくないわけではないのだが。
もしかしたら少し誤解が混ざっているかもしれない。
私は立ち上がって少しだけ九音ヒロくんに近づいた。
「あの謝るのは私の方。ごめんなさい。せっかく話しかけてくれたのに」
「大丈夫ですよ。元はと言えば俺から始まった事なので」
「でも断ったのは私だから」
「いえ。強引にやったのは俺です」
「…なんでそんな譲らないの」
「俺が悪いので」
「悪くないのに…」
悪いのを一向に譲らない九音ヒロくん。
私はどうしたものかと考える。
口元に手を持ってきて考える仕草をすると私はある事に気づいた。
「手が震えてない…?」
「どうかしましたか?」
いつもなら誰か生徒と話そうとすると手が震えてしまう。
保健室に用事がある人に挨拶されるだけでも震える。
それに酷い時は声まで途切れ途切れになってしまうのだ。
けれども今の私に一切そんな症状はない。
むしろ普通に話せていた。
「あの聞きたいんだけど…」
「なんでしょう?」
「私の声変?」
「え?何でですか?全く変じゃないです!とても綺麗な声をしていますよ!」
結構真っ直ぐな答えに私は恥ずかしくなる。
「違くて、震えてない?ガラガラしてない?」
「全くです。普通ですけど…」
九音ヒロくんは私の質問に不思議に思いながらも答えてくれた。
やはり私の思い違いではないみたいで嬉しくなる。
でも思い返せば初めてちゃんとお喋りした時もそこまで震えていなかった気がした。
何でだろうと思って私の前にいる九音ヒロくんを見る。
キョトンとしている姿を見ても答えは出せなかった。
「鈴木先輩?」
「えっ何?」
「大丈夫ですか?」
「何で?」
「だって考え込んでいるようだったので…」
そこまで顔に出ていたかと私は両手で頬っぺたを包む。
そんな様子を見て九音ヒロくんは笑った。
「あー、やっぱり無理だ!」
「どうしたの?」
急に叫んだと思ったら、お手上げですという仕草をして九音ヒロくんが私の近くまで来る。
普段なら後退りしてしまうけど、不思議と私の体は動かなかった。
「俺、先輩にお喋り断られてしばらくは距離を離した方がいいって思ったんです。そう決心したんですけど…。無理でした!」
九音ヒロくんは眉を下げて笑った。
そんな姿でも私は目を細めてしまう。
目の前で眩しく輝く笑顔。
これで何回目だろう。
目を逸らしてしまいそうな眩しさ。
でも今の私は逸らしたくないと思ってしまった。
「やっぱり先輩とお喋りしたいです。勿論amaの話だってしたいし、他の話も沢山したいです。勝手な俺の考えですけど先輩はどうですか?」
「えっと……」
言葉が止まってしまう。
喉に突っかかって口まで届かない。
目の前には眩しい貴方が答えを待っている。
その姿は「何分かかっても待ちます」と言葉にしなくても意思が伝わった。
それでも私は話せずにいる。
けれど手も足も震えてはいない。
それが答えを表していた。
後は口に出して九音ヒロくんに伝えるだけ。
頑張れ、頑張れ…。
小さくても1歩を踏みださなくちゃいけない。
一言話せば、変われるから。
「私も、お喋りしたい…!」
震えなかった声。
まだ私の言葉が辺りに響いている気がする。
私は精一杯の気持ちを込めて、九音ヒロくんに伝えられた。
そんな私の目線の先には眩しすぎる笑顔が咲いていた。