アイドルは良い。

可愛いと綺麗を持った人間がステージで輝く。

努力の結晶や涙を落としながら常に上を目指している。

普通に生きている俺とは違う輝かしい物語を紡いでいく彼女、彼達を見ていると応援してあげたくなってしまう。

今日も俺は自分の部屋のベッドに寝転がりながらアイドルを見ていた。

音楽一家九音家の長男として産まれた、九音ヒロ(くおん ひろ)はアイドルオタクだ。

とは言っても過激派でも無いし、特定の推しはいない。

ひっそりと応援する箱推しのオタクだった。

今、ベッドの上で見ているのは最近応援しているかっこいい系の女性アイドルグループのライブ映像。

動画サイトで無断転載されたものだ。

プライドの高いオタクなら無断転載などの動画なんて見ることは絶対にないだろう。

でも俺にはそんなプライドは無い。

見たいライブのチケットが取れなかったら、遠慮なく無断転載動画を見る。

今は配信ライブも行っているので便利な時代になったものだと、高校生の俺はそう思った。



「ヒロ〜」



セコい方法でライブ映像を見ていると1階から母親の声が聞こえてくる。

俺は極力ダルそうな声を出して母親に応えた。



「なにー」

「買い物行って来て〜」

「無理ー」

「いいから行ってきて〜」



何が良いのだろうか。

これ以上俺が何を言っても同じ返答しか返ってこないだろう。

17年の付き合いをしているから大体はわかっている。

俺はスマホのアプリを閉じてリビングへと降りて行った。



ーーーーーー



母親に「今日はトイレットペーパーが安いからそれは絶対ね!」と言われて強制的に近所にあるスーパーに行かされる。

何故そこまで安さにこだわるのだろうか。

大袈裟に言わなくても俺の家は裕福だ。

有名作曲家の父親を持ち、歌の先生をしている母親がいる。

収入は普通よりも結構多い。

それでも母親は安さにこだわり、毎日のようにチラシと睨めっこしている。

タイムセールや半額が出ると俺を呼び出して連れ出すこともよくあった。

勿論今日もその日でスーパーに向かうまでの道中、俺は心の中で愚痴を言っていた。



「あの泣いていた日は嘘みたいで〜」

「歌?」



スーパーまでもう少し。

大きな看板が見え始めた場所まで来ると、何処からか歌が聞こえてくる。

ラジオやスマホから流れてくる音ではなく誰かが歌っている声。

ここら辺はまあまあ人通りはある方だ。

遊ぶ小学生、立ち話をする人と時間帯によっては沢山になる。

沢山の音が混ざり合っているのに何故か歌だけがハッキリと俺の耳の中に入ってきた。



「どこだろ…」



気になってしょうがない。

聞いた事のある歌詞とメロディー。

周りを見渡しても歌っている人は見当たらない。

俺はもう一度耳を澄ましてメロディーを探す。



「あっちか?」



足を向けた方向は確かカラオケの店がある。

昔ながらなの店だが、曲や設備は最新に近くて隠れカラオケスポットでここ周辺の高校生は大体知っている。

俺も中学の頃に友達と歌いに行ったことがあった。

歌の方へ向かえば声は大きく聞こえてくる。

カラオケ店から漏れ出してしまっているのか?それだと結構恥ずかしいし、クレームレベルになるかもしれない。

それでも俺は好奇心を無くすことなく、歩いて行った。



「もっと、もっと咲かせ言の花〜」



さっきよりも歌詞がちゃんと聞こえてくる。

絶対この曲は聞いたことがあるはずだ。

でも思い出せない。

歌ってる声からして女性だからアイドル曲かもしれない。

女性だからアイドルとは限らないのだが。

歩いて数分、カラオケ店のボロっちい外装が目に入った。

歌も最初よりハッキリと感じる。

早足でカラオケ店の入り口付近まで行くと、声の持ち主が突っ立って歌ってた。



「僕の言葉を今、君に聞かせたい」

「そうかamaの曲か!」

「えっ!?」

「あっごめんなさい…」



サビ部分が歌い終わった瞬間に俺はこの曲のことを思い出した。

アイドルにハマり始めた頃に聞いた曲で、アーティスト名はama。

ソロアイドルとして活動していた人物だ。

今は活動休止となってしまって聴く機会は無くなってしまったが、久々にamaの代表曲を聴いて嬉しくなって思わず声を挟んでしまった。

歌っていた女性は急にガヤが来て歌を中断する。

俺は速攻で謝ったが女性は俯いてしまった。



「すみません。前に聞いたことがあったので」

「……ん」

「え?何ですか?」

「すみません!」
 


俺に勢いよく頭を下げた女性は走ってどこかに行ってしまった。

追いかける暇もなく目の前から消えて行ってしまって俺だけが取り残される。

意外と傷つく行動に胸を痛めながら女性が向かった方向を見ていた。

するとジャージのズボンに入っていたスマホの通知が鳴る。



【醤油追加で】

「ヤバっ!売り切れてないよな!」



母親からのメッセージに冷や汗が出て来てしまった俺は急いで引き返してスーパーへと向かって行った。

しかし走っている途中、俺の頭の中ではamaの曲が流れていた。