どうして自分じゃダメなのか。


どうして後から出てきた萌に大好きな大樹を奪われないといけないのか。


グルグルと黒い感情ばかりが渦巻いてしまう。


「だから頼む! 萌のことをよろしく頼む!」


大樹はそう言うと同時に体を折り曲げて希に懇願したのだ。


萌を守るために、今まで頭を下げたことのない相手に頭を下げた。


その好意に希の感情が一気に吹き出してしまった。


顔が真っ赤になり、目に涙の膜が貯まる。


どうして私にそんなことを言うの?


私は大樹のことが好きなのに、どうして他の女のことを頼むようなことをするの?


しかし、その気持を大樹は知らない。


希の気持ちが自分に向いていることなんて、今までずっと知らずに来た。


だから必死で頭を下げる。


少しでも萌が学校にいられるように。


教室が居心地のいい場所であるように。


「だ、大樹にだけはそんなこと言われたくなかった!」


希の叫び声に驚き顔を上げる。


希が走り出すその瞬間、涙が頬を流れていたことに、大樹が気がつくのだった。