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大樹と付き合い始めたという実感は家に戻ってからジワジワと襲ってきた。


頭を撫でられたときの感触。


抱きしめられたときの腕の感触。


そしてキスをされたときの感触……。


「きゃ~!」


すべてを順番に思い出して行って、思わず悲鳴をあげてベッドに転がる。


恋愛に疎い自分がまさか大好きな人とこんな関係になれるなんて考えたこともなかった。


まだ夢の中いるようで不思議な感覚がする。


「萌、どうしたの?」


今の悲鳴を聞いて母親がドアをノックする。


萌は慌ててベッドに座って「別に、なんでもないよ」と、平気な声を出す。


「そう。なにかあったらすぐに言うのよ?」


「わかってる。今日は調子がいいから大丈夫だよ」


そう声をかけると母親が遠ざかっていく足音が聞こえてきてホッと胸をなでおろした。


危うく変なところを見られてしまうところだった。


ニヤけるのを抑えながらどうにか着替えをして絵の続きに取り掛かる。


萌が今描いているのは未来の絵と空想の絵が合わさったファンタジックな絵だった。


どこになにを配置するかは考えていなくて、ただ書きたい場所に書きたいものを描いていく。