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大樹が病室を出ていった後も萌はしばらく呆然としてそのドアを見つめていた。


「キス……された?」


驚きのあまり、自分の声が元に戻っていることにも気が付かなかった。


ただ、唇の残るぬくもりと柔らかさだけは本物だ。


何度も瞬きをして今の出来事が夢ではなかったと確かめているうちに、スマホのバイブ音が聞こえてきた。


大樹がいたから気が付かなかったけれど、萌のカバンがサイドテーブルに置かれている。


その中でスマホが震えたのだ。


手を伸ばしてカバンの横ポケットから白色のスマホを取り出す。


画面を確認するとついさっき病室を出ていった大樹からメッセージが届いていた。


《大樹:俺は萌のことが好きだ!》


その文章に胸の奥が一気に熱くなるのを感じた。


今更大樹に自分の気持を伝えるつもりなんてなかった。


伝えて両思いになれたとしても、結局は不幸な結末を招いてしまうことになる。


それなら、自分の気持ちを封印して、大樹には全く違う人生を歩んでほしい。


「なんで、今更こんな事言うの……」


スマホをギュッと抱きしめると両目から大粒の涙が溢れ出した。


もっと早くこの言葉を聞くことができていれば。