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翌日、いつもどおりカバンを持って家を出たとき、なんだか新鮮な気分になった。


たった1日学校を休んだだけなのにこんな気持になるなんて思っていなかった萌は少し戸惑いながら学校へ向かった。


見慣れた校舎も昇降口も長い廊下もすべてが新鮮に見えて、それは今の自分の気持が関係していることだとようやく気がついた。


自分は余命宣告を受けてから、すべてのことが新しく感じられるようになっているのだ。


知っているはずなのにとても新鮮で、そのひとつひとつを大切にしたいと感じている。


病気にならないと決して知ることのない感情だった。


萌は踏みしめるようにして教室へ向かう。


階段を一歩上がるたびに心臓が早鐘をうち始めている。


大丈夫。


先生以外に自分の病気について知っている人はいないんだから。


いつもどおりにしていればいいだけだから。


必死に自分にそういい聞かせて2年生の教室へ入った。


瞬間、友人らと視線がぶつかった。


いつもなら軽く挨拶を交わすのだけれど、今日は喉の奥に言葉が詰まった。


「ちょっと萌、大丈夫?」


友人のひとりが駆け寄ってくると、他の子たちも走り寄ってきた。