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萌の葬儀には結婚式の写真が使われて、詰問客たちの涙を誘った。


けれど写真の中の萌は本当に幸せそうで、大樹の涙はひっこんでしまった。


こんなに幸せな萌を前にしたら、もう泣くことはできなかった。


「あのお守りは?」


不意に参列者から声をかけられて振り向くと、そこには兄が立っていた。


「びっくりした。来てたのか」


「お前のことが心配でな」


神出鬼没な兄に驚きながらもポケットの中を確認する。


「あれ? お守りがない」


いつでもそこに入れておいたはずのお守りが手に触れなくて、大樹は他のポケットもさがしてみた。


しかし、やはりお守りはどこにもなかった。


それを見ていた兄はホッとしたように表情をやらわげた。


「役目を終えて消えたんだな」


「そっか……」


萌は死んだ。


自分の願いも消えたのだ。


「でもさ、俺よかったと思ってるんだ」


大樹の言葉に兄は真顔に戻る。


「確かに神の領域で、人間の俺がやっちゃいけないことだったかもしれない。だけど、そのおかげで萌はあんな笑顔になれたんだと思うんだ」


遺影の萌を見つめてそっと微笑む。


「そうか。それならきっと、それが正解なんだろう」


兄はそう言い、大樹の肩を力強く叩いた。


これから先、力を得たときのことを後悔する日が来るかもしれない。


そうなったとしても、今のこの瞬間だけは間違っていなかったのだと胸をはれる。


萌が幸せだったのだと信じて……。




END