「おはよう、萌」


声をかけられて萌はうっすらと目を開けた。


いつもなら少し声をかけられただけでは覚醒しないけれど、昨日から痛み止めの投与を止めていたため、目覚めは早かった。


「お母さん」


萌のしっかりとした声を聞いただけで涙が出てきそうだった。


本当にこんな奇跡のようなことがあるのだと、体が芯から震える。


あの日、絵を見た大樹から提案されたことを思い出す。


その時に大樹から1日だけ命を分け与えることができるという力の話も聞いていた。


大樹の力のことなんて全く信用していなかったけれど、昨日の今日でここまで萌が元気になったのを見ると、もう信用するしかなかった。


こうして当日を迎えられたのは大樹のおかげだった。


「これから着替えをするけど、起きられる?」


萌は母親の言葉に首をかしげながらも自分で上半身を起こした。


立つことはできないけれど、こうして座っていることなら平気だ。


「よかった。これなら大丈夫そうね」


一体これからなにが始まるのかわからないけれど、萌はただ母親の嬉し泣きを見つめていたのだった。