「そ、それなら……っ」


涙をためた希が口をはさむ。


「大樹は、私とだけキスすればいい。不特定多数の子を傷つければその分また悪い噂も立つし。そうなるくらいなら、1人に決めておいてもいいと思う」


希にとって他意はなかった。


心から萌を助けたいと思っている。


自分にできることは、大樹の力を発揮するために手伝うことくらいだった。


「希の命をもらうの?」


萌が驚いた声をあげる。


「そうだよ。少しくらい命が減ってもどうってことないから」


「そんなこと、できないよ!」


もし明日希が死ぬとしたら?


その1日を自分がもらうことになったら?


そう考えると胸が傷んで仕方ない。


人の寿命なんて誰にもわからないものなんだから。


偶然自分は病気という形で寿命がわかってしまっただけなんだから。


「希の命をもらうことはできない」


萌は強い声色でそう言い、左右に首を振った。


希はその威圧感にたじろぎ、後ずさりをする。


「とにかく、ふたりとも今日は沢山話してくれてありがとう。少し頭を整理したいから、1人になってもいいかな?」


萌の声はもう怒っていなかった。


大樹と希は目を見交わせて、萌の病室を出たのだった。