ネット上の噂を本気にしてここまでやってきた、虚しい男だとは微塵にも思わなかった。


「どうかお願いします! 萌を助けてください!」


そうして時間が過ぎていき、大樹の声がかすれてきた。


広場の周囲は朝日で白く輝きはじめ、命が目を覚まし始める時間帯。


ふいに大樹の周りだけが明るく輝いた。


大樹は目を細めて光の出どころをさぐる。


どうやらその光は空から指しているようだけれど、眩しすぎて直視できなかった。


光から逃れるために一瞬ギュッと目を閉じた大樹が次にみたものは、地面に落ちているお守りだった。


赤色をしたそのお守りにはなにも書かれておらず、どこからやってきたのかもわからない。


「なんだこれ……」


お守りに手を伸ばして拾い上げた瞬間、大樹の頭の中に誰かの声が流れ込んできた。


それは男でも女でも、若くも年老いても聞こえる不思議な声だ。


「お前の願いを聞き届けよう。ただし、条件がある」


不思議な声は大樹の胸の中にスッと入ってきて、怖い感覚はしなかった。


「そのお守りを持っている人間は、他人から1日だけ寿命をいただくことができる。そしてその寿命を愛する人間にわたすことができる」


そのためには、寿命をいただく人間と口づけをして、そして愛する人に口づけをするというものだった。


それがどんな自体を招くのかなんて考える暇はなかった。


とにかく、これで萌の命を引き伸ばすことができる。


もしかしたら、ずっとずっと一緒に生きていくことができるかもしれないのだと、希望が湧いた。


「ありがとうございます!」