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森の中に入って20分ほど経過したとき、不意に前方にひらけた空き地を見つけて大樹は懐中電灯を向けた。


空き地の中央には古ぼけた建物があり、空き地へ入る道には木製の鳥居が立っているのだ。


そこだけ木々は伐採されていて、今でも人が来ていることがわかった。


「あった……」


今にも崩れ落ちてしまいそうな鳥居と建物を見つめて、呆然としてつぶやく。


まさか本当にこんな場所に神社があるなんて思ってもいなかった。


藁にもすがる思いでここまできたことは、決して無駄ではなかったのだ。


大樹はすぐに一礼して鳥居をくぐり、神社の前までやってきた。


本来置かれているはずの賽銭箱は朽ち果てて木くずとなり、本殿の中にはご神体があるのどうかもわからない神社だ。


そんな神社の前で大樹は膝をついて頭をさげた。


「どうかお願いします! 萌を助けてください!」


大樹の声は真夜中の森にこだまして、起き出した鳥が逃げ出して行く。


「どうかお願いします! 萌を助けてください!」


頭を地面にすりつけて、泥まみれになりながら懇願する。


ここで自分の願いが叶わなければ、もう一生叶うことはない。


「どうかお願いします! 萌を助けてください!」


どこからも返事はなく、ただ虚しく響いて消えていく。


それでも大樹はここに神様、仏様がいると信じていた。


この神社には本当に必要な人間しかたどり着くことができないはずだ。


そして自分はたどり着けた。


だから願いは聞き届けられるはずだと……。