しかし、その表情はとてもせつなそうだ。


「どういうこと?」


萌は眉間にシワを寄せてそう聞いた。


なにかがおかしいと、ようやく気がついたのだ。


「萌、俺の話を聞いて欲しい。嘘だと思われるかもしれないけど……」


大樹がそこまで言ったとき、病室のドアがまた開いた。


入ってきたのは希だ。


希もまた、学校を休んだ萌のことを気にして駆けつけてきてくれたのだ。


しかし、大樹の顔を見た瞬間険しい表情に変わった。


「なんで大樹がここにいるの?」


希はまるで敵をみつけた兵士のような表情になって大樹を睨みつける。


今にも牙をむいて襲いかかりそうだ。


「希にも聞いてほしい話がある。頼む!」


大樹はふたりへむけて頭を下げた。


その姿に萌と希は顔を見合わせた。


思えば大樹の話をちゃんと聞こうとしたことはなかった。


他の女の子とキスすることにどんな理由があるのだと、憤っていたからだ。


「そうだね。少しくらい話をきいてもいいかも」


萌は冷静にそう答えた。


さっきまで苦しかったのに、大樹にキスをされてからすっかりその苦しさが抜け落ちている。


それがただの偶然だとは思えなかった。


「ありがとう」


大樹は弱々しく微笑んで、自分の身に起きたことを話はじめたのだった。