そんな期待を見事に裏切られてしまったようだった。


まるで神様が萌の運命を弄んでいるようにも感じられる。


誰もいない病室内で鼻をすすりあげたとき、ドアが開く音がして顔を向けた。


一瞬、そこに立っているのが誰なのか判別がつかなかった。


証明が落とされた暗い病室にいる萌から見たその人物は、廊下からの逆光で暗く染まっていた。


「萌」


その声に心臓がドクンッと跳ねる。


「どう……して?」


大樹が病室に足を踏み入れてきた。


毎日会っていたはずのこの顔が、懐かしく感じられる。


「今日学校に来てないから、心配になって家に行ったんだ」


両親から入院したことを聞いて駆けつけてきたみたいだ。


大樹の息は切れていて、額には汗が浮かんでいる。


「私のことなんて、ほっといて!」


強く言うと咳き込んでしまい、止まらなくなる。


大樹は何度も咳き込む萌に近づいて酸素マスクをはずした。


なにするの!?


そう言おうとした唇を無理やり塞がれる。


いや!!


心の中で叫んで必死に大樹から身を離そうとする。


しかし大樹はしっかりと萌を抱きしめて決して離さなかった。


次第に萌の咳がやんできて、呼吸の苦しさが消えていく。


嘘みたいに胸の動機も収まっていた。


落ち着いてきた萌を確認して大樹は身を離す。