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大樹と見知らぬ少女とのキスは萌の網膜に焼き付いて簡単には離れなかった。


目を閉じれば何度もあの光景を思い出して胸に痛みが走る。


あの後、大樹に詰め寄ることも女の子を追い払うこともなく家まで逃げ帰ってきてしまった。


自分の見た光景が信じられなかったし、なにより、出ていく勇気がなかった。


それでも悔しさと悲しさは人一倍に膨れ上がって萌を攻め立てる。


どうしてあの時出ていかなかったんだ。


浮気していることを問い詰めるべきだ。


心の中のもうひとりの自分が萌を被弾する。


「どうして、こんなことになるの……」


目を閉じていたら自然と涙が流れ出していた。


大樹はいつも優しくて、病院にも何度も足を運んでくれていた。


だから少しも疑うことがなかった。


影ではあんな風に私を裏切っていたのに……!


萌は何度目かのねがえりを打ち、声を殺して泣いたのだった。