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重たい体を引きずるようにして教室へ入ると、昨日メッセージをくれた友人が気まずそうな表情で近づいてきた。


「萌、昨日は突然あんな写真送ってごめんね」


そう言う彼女は本当に申し訳なさそうにしていて、悪意がないことがわかった。


「ううん、大丈夫だよ」


本当は全然大丈夫じゃなかったけれど、そう答えるしかなかった。


無理に作った笑顔は引きつってしまい、友人は悲しそうに表情を歪める。


そんな顔してほしくないと思うのに、うまく言葉が見つからない。


「大樹くんのこと、少し考えたほうがいいと思う」


次に言われた言葉は萌の胸に突き刺さった。


友人の彼氏が他の子とキスをしていたら、誰だって同じような助言をしたはずだ。


萌だって、きっと同じことを伝えたと思う。


早く目を覚まして。


その思いを込めて。


「……そうだよね」


けれど萌の胸の痛みは簡単には消えない。


初めて人を好きになって、初めて付き合った大樹のことをそんなに簡単に切り捨てることなんてできない。


「萌、大丈夫?」


そう声をかけてきたのは希だ。


萌はふたりの友人に囲まれてうつむいてしまった。


できれば今はひとりになりたい。


これからどうするべきか、ちゃんと考えたい。


「ごめん。私なら大丈夫だから。本当に、大丈夫だから」


萌は早口でそう言うと、希と顔を合わせることもなく教室から出ていったのだった。