萌が今一番やりたいことと言えば、やっぱり絵を完成させることだった。


この大きな一枚絵が完成すれば、きっとすごく達成感があるはずだ。


早く美術部のみんなにも見せてあげたい。


萌は筆を取り、キャンバスの前に立った。


丁寧に丁寧にキャンバスの中央の絵を完成へ近づけていく。


部屋の中には絵の具の匂いが漂い、そこは萌の大好きな美術室のようだった。


絵を描いている時間は熱中してしまい、気がつけば何時間でもキャンバスに向かっていることがある。


この集中力がどこから来るのか、自分でも不思議に感じることも多かった。


「萌、そろそろご飯よ」


母親の声が聞こえてきて萌はようやく手を止めた。


時計を確認すると午後8時が近くなっていて、帰宅してから4時間も絵を描いていたことがわかった。


道具を片付けてキッチンへ向かおうとしたそのときだった。


スマホが光っていることに気がついて手に取った。


きっと大樹からのメッセージかなにかだろうと思ったが、それはクラスメートのひとりからのメッセージだった。


普段あまり連絡を取り合わない子だったので、萌は少しだけ躊躇した。


そこにはあまりよくないことが書かれているのではないかという、予感もあったのかもしれない。


しかし萌は次の瞬間にはそのメッセージを開いていた。


画面いっぱいに表示されたのは一枚の写真で、それは誰かがキスをしているところだった。


それが誰なのか萌には一瞬わからなかった。


白いTシャツに黒いジーンズの男。


相手の女の子は萌と同じ学校の制服を着ている。


どうして服装が違うんだろう?


男子のほうは一度家に帰って、わざわざ着替えてる?