仕事量を元に戻してもらっても、支障はでないのではないかと思い始めていたところだった。


しかし母親は驚いたように目を丸くして萌を見つめた。


「なに言ってるの。まだまだ油断はできないわよ」


医師に異常なしと言われたときは舞い上がっていた母親だけれど、やはり日頃から気にかけることをやめるつもりはないみたいだ。


「でも、お母さん仕事好きだったし」


「だから今でも続けてるんでしょう? 私は萌も仕事も両方取る道を選んだの。それって贅沢なことよ?」


手をギュッと握りしめられて言われると、萌はなにも言えなかった。


自分のせいでいろいろな人の人生を狂わせているんじゃないかと不安だったけれど、母親は贅沢ができていると言う。


その感覚に涙が出そうだった。


「だから萌はそんなこと気にせずに、自分の好きなことをすればいいの」


「……うん、わかった」


涙を目の奥に引っ込めて、萌は頷いたのだった。