これは夢だ。


悪い夢だ。


そう思っても現実に戻ることができなくて、大樹は頭をかかえた。


どうしてこんな場面を見せるんだ。


これはもう終わったことで、俺は十分苦しんだはずだ!


心の中で夢の内容に抗議したとき、ふと周りの空気が変わって顔を上げた。


気がつくと大樹は森の中にいた。


土と腐葉土の匂いが鼻孔を刺激して顔をしかめる。


この森には見覚えがあった。


大樹はそっと立ち上がり、手紙をきつく握りしめて歩き出した。


辛い内容が書かれている手紙だけれど、適当な場所に捨てることはできない。


これには萌の思いが綴られているんだから。


柔らかな土を踏みしめて歩いていくと、不意に開けた場所に出る。


そこには小さな神社があった。


それは人に忘れ去られたような朽ち果てた神社で、それなのに周囲の草木だけ丁寧に刈り取られている様子は少し異様に感じられた。


人々は決してこの神社を忘れてはいない。


それでもこれ以上近づくことはできない。


そんな雰囲気を感じさせている。


大樹は木製の鳥居をくぐり抜けて神社の前に立った。


そこでようやく、自分がここへ来たのは自分の意思だということを思い出していた。


そうだ。


俺はここを目指して歩いてきたんだ。


大樹は神社の前で立ち止まり、手を合わせた。


「頼む! 萌を助けたいんだ!」


声に出して祈ると森中に響き渡るようだった。