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萌の退院祝いは1時間ほどで終わった。


本当はもっと友達と話たいことがあったのだけれど、先生との約束で時間が決められていたのだ。


「すっごく楽しかったね!」


パーティーに無理やり参加させられた大樹だったが、その後部活に戻ること無く萌を家まで送り届けてくれていた。


「あぁ。ほんとみんないいやつばかりで安心した」


大樹の表情は明るく穏やかだ。


希が気持ちを改めたのは萌の病気を知ったせいだと思うが、それでも萌が学校に行きやすくなるのであれば、あれでよかったのだと感じられた。


「最近、不思議に感じることがあるんだぁ」


萌は白い小石を蹴って歩きながらつぶやく。


真夏が近くなっているようで、歩道を歩いているだけで肌がジリジリとやけてくるようだ。


大樹は萌に日陰を歩かせながら話を聞いた。


「不思議って?」


「今日もそうだったんだけど、大樹とキスをすると体が元気になる気がするの」


嬉しそうに、少しテレたように言う萌に大樹の心臓はドキッと跳ねる。


「好きな相手とのキスだから、それだけで元気になるんじゃないか?」


内心焦りを感じながらも、どうにか悟られないように会話を続ける。


「そうかもしれないね。でも、気持ちだけじゃなくて本当に体がよくなる気がするの。数値だって、ずっと落ち着いてるしさ」


「病は気からって言うし、そういうこともあるかもしれないよな」


「だったらすごいよね。私、大樹のキスで病気が治るかもしれないんだから」


跳ねるように歩く萌は末期がんの患者とは思えないほどだ。


そこには苦しみも悲しみも存在していない。


病気であることが夢みたいだ。


「そんなことより、明日は学校休みだろ。萌はなにするんだ?」