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校門の前まで車をつけてもらって降りると、緊張で少し汗が滲んできた。


ここから先は自分1人で行かなきゃいけない。


今日は大樹も朝練があるから、近くには誰もいなかった。


教室内で感じていたあの冷たい視線をまた感じるかもしれないと思うと、少しだけ足が重たくなる。


それでも学校へ来ることを選んだのは自分自身だ。


萌は気分が塞いでしまわないようにわざと大股で足を進めた。


下駄箱でつくを履き替える作業とか、階段を登っていく音とかがやけに懐かしく感じる。


そして教室の前までたどり着いた時、萌は一旦足を止めた。


みんなどんな反応を示すだろうか。


自分が戻ってきたことを、どんな風に感じるだろうか。


怖い気持ちもあったけれど、また教室に入れることはやっぱりうれしかった。


萌の心の中には複雑な感情が入り混じり、なかなか足を踏み出すことができない。


しばらくそうして立ち尽くしていると、後から足音が近づいてきた。


そして萌のすぐ後で立ち止まる。


「あ、ごめん」


邪魔になっているのだと思い体を横によけたとき、後に立っていた希と視線がぶつかった。


ハッと息を飲み、目を見開く。


希も同じように萌を見つめていた。


「お、おはよう!」


一瞬言葉に詰まったものの、萌はいつもどおりの笑顔を浮かべた。


心臓はドキドキと早鐘を打っていて、希の次の言葉を待っている。


「……おはよう」