「おい、ちょっと待てよ!」


後から追いかけてくる音が聞こえてきても大樹は足を緩めなかった。


兄は正しいことを言うだけだ。


自分の気持がどうであるかなんて、きっと後回しにされるに決まっている。


「お前は間違ってる!」


大樹が兄と距離をおいて1人でエレベーターに乗り込んだとき、廊下から兄はそう声をかけたのだった。