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萌の余命を本人の口から聞いてから大樹は毎日病院へ行くようになった。


部活がある日は少し時間が遅くなるけれど、それでも必ず萌の病室を訪ねた。


「ごめん、汗臭いだろ」


「ううん、太陽の匂いがする」


部活で汗をかいた大樹を見て、萌はそう言って微笑んだ。


「萌、少し痩せたか?」


「少しだけね? ちょうどよくなったと思う」


余分な肉が落ちた体を見下ろして、萌はわざとらしいくらい嬉しそうに笑った。


「トランプもってきたんだ。なにして遊ぶ?」


「ふたりだから神経衰弱とかいいんじゃない?」


そうして病室を出ていくときには必ずキスをした。


萌は必ず顔を真っ赤にそめてうつむいて、いつまでも慣れない様子だ。


「それじゃ、また明日くるから」


「うん。待ってる」


手を振って病室から出た瞬間、大樹の手を誰かが掴んだ。


ハッとして顔を向けるとそこに立っていたのは大学病院にいるはずの兄だった。


兄は険しい表情で大樹を睨みつけている。


大樹はとっさにその手を振りほどいて兄を睨み返していた。


「どうしてここにいるんだよ!」


院内なのでそれほど大きな声は出せないが、それでも十分に迫力のある声で大樹は威嚇する。


「お前に話があって来たんだ」


「俺は別に兄貴と話なんかない」


そう言い捨てるとそのまま大股で歩き出す。