プロローグ
天界。
そこは多くの龍神が住まい、四人の王と呼ばれている龍神によって秩序が保たれている。
金赤の王、白銀の王、漆黒の王。
そして、紫紺の王である波琉。
彼の住まう場所は水宮殿と呼ばれていた。
これまでならば波琉の姿が見られた執務室に彼の姿はなく、代わりに波琉の補佐をしている瑞貴が仕事を裁いていた。
「瑞貴様、失礼いたします。紫紺様より手紙が届きました」
「おや、珍しい」
波琉からの手紙など、人間界に行ってから初めてのことではないだろうか。
いや、確か人間界に降りて少ししてから、同じ花印を持つ子供が見つからないのでしばらく滞在する旨をしたためた手紙が届いて以来か。
瑞貴は手紙を持ってきた龍神に問う。
「紫紺様が人間界に行かれて百年ぐらいでしたか?」
「いえ、十六年になります」
「そんなものでしたか」
どうも龍神というものは不老なために時間の感覚が鈍い。
まだ十六年しか経っていなかったかという驚きとともに、十六年もの間頼りひとつしてこなかった波琉にあきれる。
まあ、波琉も時間の感覚が緩やかなので近況報告を忘れていたとも考えられた。
龍神にとって百年も十六年もたいして変わらないのである。
「なにかよい報告でもありましたかね?」
手紙を受け取り中を確認した瑞貴は相好を崩す。
「ああ、やっと同じ花印を持ったお相手と出会えたようですね」
「それは喜ばしい」
瑞貴の言葉を聞いた龍神も表情を緩める。
かの王の手に花印が刻まれたことには、紫紺の王に属する龍神だけでなく、他の王に仕える龍神も興味津々なのだ。
誰よりも龍神らしい龍神。
粛々と天帝から与えられた役目をこなすだけで、他者への興味が極端に薄い紫紺の王。
波琉に花印が浮かんだ話はあっという間に天界の噂となり、白銀の王などは、わざわざ水宮殿を訪れて波琉の不在をわざわざ確認しに来たほどだ。
どんな美しい神にもなびかぬ波琉は、同じ花印を持った人間にも同様に心動かされぬのだろうなと考えながらも、瑞貴は波琉を追い立てるようにして人間界へ行かせた。
その判断が正しかったのか当初は疑問だった。だが……。
『どうやら僕の唯一を見つけたようだよ。ありがとう、瑞貴』
手紙の最後に書かれた一文を目にし、瑞貴の口角は自然とあがっていた。
「こんなことを書かれては、見に行ってみたくなりましたね」
クスリと笑う瑞貴は窓から遠い空に向けて一礼する。
「天帝よ、感謝いたします」
姿の見えぬ天帝に向け、瑞貴は心からの感謝を伝える。
王たる波琉にようやく大事に思える存在ができた。
それは瑞貴にとっても心から喜ばしい出来事だった。
だからこそ、波琉に花印を与えてくれたこと天帝に感謝を伝えずにはいられなかった。
天界。
そこは多くの龍神が住まい、四人の王と呼ばれている龍神によって秩序が保たれている。
金赤の王、白銀の王、漆黒の王。
そして、紫紺の王である波琉。
彼の住まう場所は水宮殿と呼ばれていた。
これまでならば波琉の姿が見られた執務室に彼の姿はなく、代わりに波琉の補佐をしている瑞貴が仕事を裁いていた。
「瑞貴様、失礼いたします。紫紺様より手紙が届きました」
「おや、珍しい」
波琉からの手紙など、人間界に行ってから初めてのことではないだろうか。
いや、確か人間界に降りて少ししてから、同じ花印を持つ子供が見つからないのでしばらく滞在する旨をしたためた手紙が届いて以来か。
瑞貴は手紙を持ってきた龍神に問う。
「紫紺様が人間界に行かれて百年ぐらいでしたか?」
「いえ、十六年になります」
「そんなものでしたか」
どうも龍神というものは不老なために時間の感覚が鈍い。
まだ十六年しか経っていなかったかという驚きとともに、十六年もの間頼りひとつしてこなかった波琉にあきれる。
まあ、波琉も時間の感覚が緩やかなので近況報告を忘れていたとも考えられた。
龍神にとって百年も十六年もたいして変わらないのである。
「なにかよい報告でもありましたかね?」
手紙を受け取り中を確認した瑞貴は相好を崩す。
「ああ、やっと同じ花印を持ったお相手と出会えたようですね」
「それは喜ばしい」
瑞貴の言葉を聞いた龍神も表情を緩める。
かの王の手に花印が刻まれたことには、紫紺の王に属する龍神だけでなく、他の王に仕える龍神も興味津々なのだ。
誰よりも龍神らしい龍神。
粛々と天帝から与えられた役目をこなすだけで、他者への興味が極端に薄い紫紺の王。
波琉に花印が浮かんだ話はあっという間に天界の噂となり、白銀の王などは、わざわざ水宮殿を訪れて波琉の不在をわざわざ確認しに来たほどだ。
どんな美しい神にもなびかぬ波琉は、同じ花印を持った人間にも同様に心動かされぬのだろうなと考えながらも、瑞貴は波琉を追い立てるようにして人間界へ行かせた。
その判断が正しかったのか当初は疑問だった。だが……。
『どうやら僕の唯一を見つけたようだよ。ありがとう、瑞貴』
手紙の最後に書かれた一文を目にし、瑞貴の口角は自然とあがっていた。
「こんなことを書かれては、見に行ってみたくなりましたね」
クスリと笑う瑞貴は窓から遠い空に向けて一礼する。
「天帝よ、感謝いたします」
姿の見えぬ天帝に向け、瑞貴は心からの感謝を伝える。
王たる波琉にようやく大事に思える存在ができた。
それは瑞貴にとっても心から喜ばしい出来事だった。
だからこそ、波琉に花印を与えてくれたこと天帝に感謝を伝えずにはいられなかった。