西野くんと宿題をやったあの日から数日たったある日、私はメッセージを書いては消してを繰り返していた。私はあれから数日たった今でも自分の気持ちがはっきりわからずにいた。

 確かに私は今西野くんのことを好きになっているんだと思う。でも私はこの気持ちが勢いに流されてしまっただけの『好き』ではないと言い切れずにいた。西野くんはあんなにもまっすぐに気持ちを伝えてくれたのだから、いい加減な答えは出したくない。

 だからこそ私は西野くんに直接会って気持ちを確かめようと思っている、のだがなんだか気恥ずかしくてお誘いのメッセージを送信できずにいる。どうしよう、と家のリビングにあるソファであーだのうーだの言って寝っ転がっていると突然大きめの声で話かけられた。

「奈緒!」

「えっ!? うわっなに!?」

 母の声に驚いて思わず手元が狂う。そのままソファの下までスマホを落としてしまい、拾いながら母に何事かと尋ねる。

「夏休みだからってごろごろしてないで、家のこと手伝って。洗濯物干してくれない?」

「わかったよ。……ん? あー!!」

 母の小言を聞きながらスマホをソファ下から取り出すと、メッセージが送信されていた。どうやら先ほど手元が狂ったときに間違えて押してしまったらしい。どうしよう、なんて考えているうちに西野くんから返信が来た。西野くんは今日の午後から暇だという。

 こうなったらもう後戻りはできない、と腹をくくり今日の13時に花火を見たあの公園に来てほしいとメッセージを送る。これでよし、あとは実際に会って話をして気持ちを確かめるだけだ。

 そうして12時半になったころ、私はあの公園入口にいる。緊張しすぎて30分も早く着いちゃった……。しかもぼんやりしていたせいで日傘も帽子も忘れたから日光が直接当たって暑い。道中買ったお茶を飲んでセミの鳴き声を聞きながら西野くんを待っていると、ほのかに湿ったようなにおいがした。

 するとぽつり、ぽつりと雨が身体に当たる。うそ、こんなに晴れているのに雨!? しかもその雨は少しずつ強くなっているのがわかる。どうしよう、とにかくどこか雨宿りできる場所に……

「早川さん!」

 声のした方向を見ると西野くんが折り畳み傘をさしてこっちに走ってきているのがわかった。西野くんは慌ててこちらまで駆け寄ってくると、私に折り畳み傘を渡して半ば無理やり握らせた。

「え、ちょっと西野くん」

「早川さんそれ持って、あっちの大きな樹の下に行こう」

 そう言って折り畳み傘を握っていない方の手をつかんで大きな樹があるほうへ誘導してくれた。樹は思っていた以上に大きく、このくらいの雨ならしのげそうだ。

「早川さん、大丈夫? 濡れてたらこのハンカチ使って」

 ハンドタオルを差し出してほかにタオル無かったっけ、なんて言いながらカバンの中を慌てて確認している。しかし私なんかよりよっぽど西野くんのほうが濡れている。当たり前だ、彼は自分の持っていた傘を私に差し出しだから。

 西野くんはいつもそうだ。自分のことを二の次にして、私を大切にしてくれる。確かにその行動がから回ることはあるけれど、それでも彼は必死に考えて行動して、好意を全身で伝えてくれる。そんな一生懸命で優しい彼のことを私は

「西野くん」

「あ、どう」

 西野くんの言葉を最後まで聞かず、私は彼に抱き着いた。西野くんは慌てて腕をばたばたさせている。雨に濡れているとかもうどうでもよかった。私は、西野くんに全力で気持ちを伝えたい。

「西野くん、好き」

 瞬間、西野くんの動きは止まった。そして恐る恐るといった様子で少し小さな声でこう聞いてきたのだ。

「本当に?」

「嘘じゃないよ、私は一生懸命で一途に思ってくれる西野くんが好き」

 その言葉を聞いた西野くんは私の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめてくれた。嬉しい、好き、そう西野くんが何度もつぶやくのが聞こえる。恥ずかしいけれどどこか嬉しくて愛おしい気持ちが止まらない。

 しばらくそのままの状態が続いたが、雨が止んだころお互いそろそろと背中から手を放し、見つめって少しだけ笑ってしまった。二人とも眼に涙があって少しだけ面白いような、うれしいような気持ちになったのだ。

「これからどうしよう」

「とりあえず西野くんの濡れた服をどうにかしないと」

 そんな話をしながら手をつなぐ。虹がかかった空の下、お互いの手を離さないというかのように強く握りこれからのことを話して歩いていくのであった。