「え…?」

 私の言葉に西野くんは眼を見開いて言葉に詰まっているようだ。その様子を見て私は自分の栗色の髪を触りながら話した。

「この髪の毛の色、結構目立つでしょ?」

「え、そうかな。そうは思わないけれど、もしかして地毛なの?」

「そう、生まれた時からずっとこの色」

 そう話しながら私はぽつぽつと私の中学生時代にあった出来事を西野くんに話した。
 私は生まれた時からこの栗色の髪の毛をしていたため、そのまま中学校に入学した。すると入学して早々、担任の先生に職員室に呼び出されて髪の毛を黒くするように言われた。
 正直とてもショックだった。だって私は生まれてからずっと髪の色で育ってきて、何も悪いことなんてしていないのに校則で明るい髪色は禁止されているとかいう理由だけでこの色を否定されたのだ。あまりに理不尽で感情が爆発しそうになった。
 先生にどんなに説明してもほかの生徒に悪影響だとかいって聞いてもらえなかった。私がそんな先生の対応に絶望しかけたその時、たまたま職員室に提出物を届けにきて話を聞いていた子がこう言ったのだ。

『それは先生の言っていることの方がおかしくないですか?』

『生まれた時からこの髪の毛の色なのになんで髪の毛が明るいってだけで問題なんですか?』

『彼女は何も悪くないのに、そんな風に生まれ持ったものを悪く言う先生の方が生徒に悪影響ですよ』

 そう先生にまくしたてたのだ。しかし言葉を詰まらせたもののダメなものはダメだという先生にその子、斎藤悠里ちゃんは教室に戻り私と同じ小学校の子を中心にちょっとした反対運動を起こした。こんなのは間違っていると怒ってくれたのだ。
 結局事態が大きくなったため校長先生たちなどが話し合い、過去の私の写真などを見てもとから髪の毛が栗色なことを判断。学校から許可がおりて髪の毛を染めずに済んだのだ。

「まあそれでも変に絡んでくる人とかいて、大変ではあったんだけどね」

 西野くんは私の過去話に口をはさむことなく、じっと私の顔を見たまま話を聞いていた。

「だから入学式の日に西野くんの眼を見てすぐにわかったの、この人もきっと色んなことを言われてきたんだなって。だから私はあえてその眼については触れずに過ごしてただけだよ。優しくしてたのも、過去に私がしてほしかったことをして自分を慰めてただけ」

「西野くんのためにしていたわけではない、ただの自己満足だったの。もちろん同じような体験をしたもの同士、仲良くなれるかなって思いもあったけど」

 そこまで聞いた西野くんは一度ゆっくり目を閉じたあと、目を開けてこちらを見つめながらテーブルの上に置かれていた私の手をぎゅっと握ってきた。

「それでも、俺が早川さんに救われたことには変わりないよ」

「え?」

 まっすぐ私を見つめながら西野くんは私の握った手をさきほどより強く握る。

「早川さんがどんな理由で俺に優しくしていたかなんて関係ない、俺がそれをどう受け止めたかが大切なんだ。俺はグループワークで気にかけてくれて、学校で毎日挨拶をしてくれたあなたが好きなんだ」

 そのまっすぐな言葉に私は思わず言葉を失い、黙ってしまう。少しの間無言の時間が過ぎていく中、私は西野くんに握られた手が冷たいことに気が付いた。そしてよく彼の顔を見ると、少し赤くてこわばっていることに気が付く。
 西野くん、緊張しているんだ。そんな緊張しながらも私に好意を伝えてきてくれているという事実に私は心臓が早くなっていく。そんな風に思われて、伝えられたら私は

「ご、ごめん。勝手に手を握って」

 無言の間に少し落ち着いたのか、西野くんは私の手を離した。その瞬間、私はなぜか少し寂しい気持ちになった。

「なんかもう今日はもう一緒に宿題をするのは難しそうだよね。ここで解散にしようか」

「うん…」

 西野くんの提案にのって今日はもうお開きということになった。確かにいまの気持ちで宿題なんてお互い無理かな。残っていた飲み物と食事を何とも言えない空気で食べ終えたあと、お互い家へと帰った。
 家に帰ってベッドに寝転んで今日西野くんに言われたことを思い返していると、彼からメッセージが届いた。

『今日話をしたことで早川さんのことをもっと知ることができた。やっぱり好きだ』

 そのメッセージを読んだ後、私はスマホを投げて目を閉じる。西野くんはいい人だ。そしてこんなにも私のことを思って、受け止めてくれる。そんな人をきっと私は好きになるんだろう。
 確信に近いなにかが私のなかにはあった。その暖かくてどこか気恥ずかしい気持ちに耳を傾けながら、しばらく私はベッドで横になり西野くんのことを考えるのであった。