昨日はいつもより夜更かしをしたせいか正直ちょっと眠い。でも色々調べたおかげである程度何を買えばいいのか知ることができた。まずは今回のデートに絶対必要な浴衣を見に行こうと大型ショッピングモールの中を歩いていく。
ここが浴衣エリアか。今月末に花火大会があるためか私と同じように浴衣を見に来ている人がそれなりにいるし、すごい数の浴衣がずらりと並んでいる。
ここの中から探すのか、と内心ちょっとどんよりしながらも和也とのデートのことを思えば気合が入った。このたくさん並べられたなかから選ぶのは大変だけど、色を絞ってみていけばそこまで大変じゃないと思うし。
私は朝から奈緒にメッセージを入れて私に似合う色を聞いておいた。自分では似合う色ってわからないし、いつも白黒の服ばかりだからこういう時は友達に頼るのが一番だと思ったのだ。奈緒は緑が似合うと思うよと返信してれたので、緑色の浴衣を探していく。
「緑、緑……ここらへんかな」
緑色の浴衣だけでもそれなりの数があったけれど、あのなかから自分に似合うか考えて探すよりもずっといいな、と思いつつ今度は柄や帯の色を見て決める。どれがいいんだろう、と一つ一つ見ていくと大きなひまわり柄の浴衣が目に入った。
「これ、可愛い」
鮮やかな緑色に大柄なひまわりがとても映えている。ひまわりは私も好きな花だし夏にぴったりだ。これを見た瞬間びびっと何かがはしった私はもうほかの浴衣を見ても何も感じることがなかったため、そのひまわり柄の浴衣とセットの黄色の帯に決めた。
ついでに黄色の巾着かごと歩きやすいと評判の下駄を買う。普通の下駄より少し値は張ったけれど、靴擦れをおこして足が痛くなって部活に影響が出るのは避けたい。スニーカーでもいいかな、って思ったけれどできれば一式そろえたかったのでここは下駄にした。
浴衣と帯などは一式そろえた。さて、ここからが問題。なにが問題かって言うとヘアアレンジと化粧だ。私は手先が不器用でヘアアレンジなどが大の苦手なのだ。どれくらい苦手かというと、高いポニーテールをするのに15分かかってしまうくらい。奈緒や他の友達に当日お願いすることも考えたけれど、さすがにみんな予定があるだろうからやめておいた。
それに化粧。これに関しては未知の領域だ。一応昨日メイク動画をみて必要最低限のものをメモしてきたけれど、それを買ったとして使いこなせるかどうか。いや、そんなこと考えていてもしかたがない! とにかくまずはドラックストアに行って化粧品を見よう。
「なに、これ」
ドラックストアにはいって化粧品コーナーをみた私はさながら宇宙に迷い込んだかのような気分になった。だって、化粧品がこんなに種類があるなんて知らなかったんだもの!
様々な化粧品メーカーごとにずらりと並んだ名前もわからない化粧品。もうそれを見ただけで私はくらりとめまいがしたような気がした。いや、でもとにかく化粧下地? ってやつとかファンデーションとかいうものを探せば……。
そう思いなおしくじけそうな心に気合をいれて化粧品コーナーに足を運ぶと、なんだか各メーカーに化粧下地などはあるしファンデーションの色も様々だ。うそでしょう、このなかから自分の肌の色に会うやつを選ばなくちゃいけないの? どうやって。
またしても今にも心がくじけそうな気持ちになり化粧品コーナーをぐるぐるしていると、突然後ろから声をかけられた。
「えっと、鈴谷さんだよね。どうしたの、なんだか様子が変だけれど」
誰だろうと振り返ると、そこには軽く化粧をして黄色の膝丈ワンピースを着たショートカットの女の子がいた。なんというか、小動物みたいな可愛さのある子だななんて思いながら記憶をたどるが、この子と話をしたことはないと思う。
「あの、ごめんなさい。私あなたとお話したことあったかしら」
「あ! こちらこそごめんね。わたしは奈緒ちゃん、早川奈緒と同じ中学校出身でお友達の斎藤悠里。奈緒ちゃんからあなたのことを聞いていたから、わたしが一方的に鈴谷さんのことをしっていたんだ」
なるほど、奈緒の友達か。それで私の名前を知っていたんだ。それにしても、なんで私に声をかけてきたんだろう?
「そうだったのね。それにしても突然声をかけてくるなんて、私そんなにはたから見て様子がおかしかったかしら……」
「あー、えっと、うん。鈴谷さん化粧品コーナーをずっとぐるぐるしていたから。何か探し物?」
どうやら斎藤さんは私があまりに同じところをまわっているから心配して声をかけてくれたみたいだ。いい子だな、なんて思いながらなんでずっとこの場にいるのかを説明する。
「実は花火大会に行くときに化粧をしたくて買いにきたんだけれど、初めて化粧品コーナーにはいったから何を買えばいいのか悩んじゃって……」
「そうなんだね。初めて化粧品コーナー来ると数が多くてびっくりするよね。……あの、鈴谷さん普段化粧しない感じかな? もしかして花火大会のとき頑張って初めてみるの?」
「う、うん。実は私化粧なんて今まで一度もやったことがなくて。でも花火大会の日はなんていうか、頑張ってみたいなって」
その私の言葉を聞いた斎藤さんは目をぱちぱちさせた後、にっこり笑ってよかったら一緒にそこのカフェに入らないか、と誘ってきた。初めて会う子とカフェに入るのは緊張するけれど、正直頭がパンクしそうになっていた私は斎藤さんの誘いを了承した。
カフェに入りお互い冷たいジュースを頼んで一息つく。斎藤さんがカフェに誘ってくれてよかった。本当はもうあの場にいるのが精いっぱいでどうしていいのかわからなかったのだ。ジュースを口にして頭を冷やしている私をみて斎藤さんはそっと口を開いた。
「ねえ鈴谷さん。よかったら鈴谷さんの悩み聞かせてくれないかな」
「え?」
「出会ったばかりなのに何を言っているんだとか思われそうだけれど、初めて会ったからこそ言えることもあると思うんだ。それに、鈴谷さんなんだか難しい顔していたから」
出会ったばかりの斎藤さんに悩みを聞いてもらう。どうしよう、でも確かに斎藤さんはたぶん和也のことを知らない。だから奈緒に相談するよりも恥ずかしくはないかもしれない。それに今日の斎藤さんを見ると化粧品とかにも詳しそうだ。
そう考えた私はジュースを飲みながら花火大会デートについて話をした。好きな人がいてデートに誘えたこと、そのために精いっぱい慣れないおしゃれをしたいこと、でも化粧品やヘアアレンジなどがわからず困っていること。
斎藤さんは私の話が終わるまで相槌を打ちながら静かに聞いてくれた。そして終わったころにそっか、といったあとこう言葉をつづけた。
「好きな人のために努力したくなる気持ちわかるよ。わたしもそうだから。でも、あれもこれも一度にやったらきっと鈴谷さんが疲れちゃうよ。まずはデートを楽しめるように考えよう」
「楽しめるように……、確かにせっかくのデートだもんね」
斎藤さんにも好きな人がいるんだ、なんて思いつつ話の続きを聞く。まずは浴衣の着付けについてだ。これについては美容院でやってもらうことをはなし、次は髪型についてだ。
最初はおなじく美容院でアレンジしてもらおうかと思ったけれど、今日浴衣とか色々買っていたら思っていた以上にお金がかかってしまった。できればヘアアレンジは自分でやってお金を使わないようにしたい。でも私ができるヘアアレンジでお洒落なものは思いつかない。どうしよう。
「ヘアアレンジが苦手ならこれがいいんじゃないかな。デフトバンっていうんだけれど、簡単につけられて髪の毛まとめられるからおすすめだよ。ここの1階にあるアクセサリー専門店にも売っているし」
「デフトバン?」
そう聞き返す私に斎藤さんはデフトバンで髪の毛をまとめる動画を見せてくれた。なるほど、真ん中にある隙間に髪をくぐらせてそのまま内巻きに巻いていって最後は両サイドをクロスさせればお団子ができあがるんだ。
これは確かに簡単そうだし、見た目もお団子に大きなリボンが付いたみたいで可愛らしい。これなら私にもできるかも! そう思い後で1階にいってみようと決めた。
「それと化粧品なんだけれど、無理にする必要ないいんじゃないかな」
「え?」
「確かに鈴谷さんが化粧して好きな人の前に現れたいのはわかるよ。でも化粧品って安いものでもそろえるとそこそこお金かかるし、練習するのも時間がかかるから」
「それは……、そうだけれど」
「だから、全部をそろえるんじゃなくて一つだけお守り代わりに買っていこう」
鈴谷さん、ついてきてくれないかな。なんて言うと斎藤さんは飲み終わったコップを持って返却口に歩いていく。私も慌ててそのあとを追っていく。斎藤さんってなんだか意外と強引なところがあるんだな、なんて考えて後をついていると先ほどのドラックストアについた。
そこに入っていくと斎藤さんはあるものを手に取って私に見せた。
「これって、リップ?」
「そう、色付きのリップ。綺麗なピンク色に発色するタイプのやつだからそれ塗るだけでもだいぶ印象変わると思うよ。それをお守りにつけていくといいよ」
「お守り……」
色付きリップをぼんやり眺める私に斎藤さんはにっこり笑ってこう言った。
「鈴谷さんの恋が上手くいきますように。私がお願いしたから、きっと叶いますようにって」
「!!」
なんてことのないただの願い事だ。斎藤さんはただの同学年の女の子であって神様ではない。でも、そのお願い事を聞いた時私は勇気づけられたのだ。誰にも言えなかった恋心を聞いてくれて、恋の成就を願ってくれた。その心が嬉しかったのだ。
「ありがとう斎藤さん! 私、それ買ってくるね」
「うん、きっと鈴谷さんに似合うよ」
そうして私はそのリップを買って、そのあと斎藤さんと一緒にデフトバンを見て買うことで買い物は終了した。最後にお互い連絡先を交換し合って斎藤さんとは別れて家まで帰る。
帰りの電車の中、私は和也とメッセージで花火大会の予定を組みながら斎藤さんの恋も叶うといいな、なんて考えていた。
ここが浴衣エリアか。今月末に花火大会があるためか私と同じように浴衣を見に来ている人がそれなりにいるし、すごい数の浴衣がずらりと並んでいる。
ここの中から探すのか、と内心ちょっとどんよりしながらも和也とのデートのことを思えば気合が入った。このたくさん並べられたなかから選ぶのは大変だけど、色を絞ってみていけばそこまで大変じゃないと思うし。
私は朝から奈緒にメッセージを入れて私に似合う色を聞いておいた。自分では似合う色ってわからないし、いつも白黒の服ばかりだからこういう時は友達に頼るのが一番だと思ったのだ。奈緒は緑が似合うと思うよと返信してれたので、緑色の浴衣を探していく。
「緑、緑……ここらへんかな」
緑色の浴衣だけでもそれなりの数があったけれど、あのなかから自分に似合うか考えて探すよりもずっといいな、と思いつつ今度は柄や帯の色を見て決める。どれがいいんだろう、と一つ一つ見ていくと大きなひまわり柄の浴衣が目に入った。
「これ、可愛い」
鮮やかな緑色に大柄なひまわりがとても映えている。ひまわりは私も好きな花だし夏にぴったりだ。これを見た瞬間びびっと何かがはしった私はもうほかの浴衣を見ても何も感じることがなかったため、そのひまわり柄の浴衣とセットの黄色の帯に決めた。
ついでに黄色の巾着かごと歩きやすいと評判の下駄を買う。普通の下駄より少し値は張ったけれど、靴擦れをおこして足が痛くなって部活に影響が出るのは避けたい。スニーカーでもいいかな、って思ったけれどできれば一式そろえたかったのでここは下駄にした。
浴衣と帯などは一式そろえた。さて、ここからが問題。なにが問題かって言うとヘアアレンジと化粧だ。私は手先が不器用でヘアアレンジなどが大の苦手なのだ。どれくらい苦手かというと、高いポニーテールをするのに15分かかってしまうくらい。奈緒や他の友達に当日お願いすることも考えたけれど、さすがにみんな予定があるだろうからやめておいた。
それに化粧。これに関しては未知の領域だ。一応昨日メイク動画をみて必要最低限のものをメモしてきたけれど、それを買ったとして使いこなせるかどうか。いや、そんなこと考えていてもしかたがない! とにかくまずはドラックストアに行って化粧品を見よう。
「なに、これ」
ドラックストアにはいって化粧品コーナーをみた私はさながら宇宙に迷い込んだかのような気分になった。だって、化粧品がこんなに種類があるなんて知らなかったんだもの!
様々な化粧品メーカーごとにずらりと並んだ名前もわからない化粧品。もうそれを見ただけで私はくらりとめまいがしたような気がした。いや、でもとにかく化粧下地? ってやつとかファンデーションとかいうものを探せば……。
そう思いなおしくじけそうな心に気合をいれて化粧品コーナーに足を運ぶと、なんだか各メーカーに化粧下地などはあるしファンデーションの色も様々だ。うそでしょう、このなかから自分の肌の色に会うやつを選ばなくちゃいけないの? どうやって。
またしても今にも心がくじけそうな気持ちになり化粧品コーナーをぐるぐるしていると、突然後ろから声をかけられた。
「えっと、鈴谷さんだよね。どうしたの、なんだか様子が変だけれど」
誰だろうと振り返ると、そこには軽く化粧をして黄色の膝丈ワンピースを着たショートカットの女の子がいた。なんというか、小動物みたいな可愛さのある子だななんて思いながら記憶をたどるが、この子と話をしたことはないと思う。
「あの、ごめんなさい。私あなたとお話したことあったかしら」
「あ! こちらこそごめんね。わたしは奈緒ちゃん、早川奈緒と同じ中学校出身でお友達の斎藤悠里。奈緒ちゃんからあなたのことを聞いていたから、わたしが一方的に鈴谷さんのことをしっていたんだ」
なるほど、奈緒の友達か。それで私の名前を知っていたんだ。それにしても、なんで私に声をかけてきたんだろう?
「そうだったのね。それにしても突然声をかけてくるなんて、私そんなにはたから見て様子がおかしかったかしら……」
「あー、えっと、うん。鈴谷さん化粧品コーナーをずっとぐるぐるしていたから。何か探し物?」
どうやら斎藤さんは私があまりに同じところをまわっているから心配して声をかけてくれたみたいだ。いい子だな、なんて思いながらなんでずっとこの場にいるのかを説明する。
「実は花火大会に行くときに化粧をしたくて買いにきたんだけれど、初めて化粧品コーナーにはいったから何を買えばいいのか悩んじゃって……」
「そうなんだね。初めて化粧品コーナー来ると数が多くてびっくりするよね。……あの、鈴谷さん普段化粧しない感じかな? もしかして花火大会のとき頑張って初めてみるの?」
「う、うん。実は私化粧なんて今まで一度もやったことがなくて。でも花火大会の日はなんていうか、頑張ってみたいなって」
その私の言葉を聞いた斎藤さんは目をぱちぱちさせた後、にっこり笑ってよかったら一緒にそこのカフェに入らないか、と誘ってきた。初めて会う子とカフェに入るのは緊張するけれど、正直頭がパンクしそうになっていた私は斎藤さんの誘いを了承した。
カフェに入りお互い冷たいジュースを頼んで一息つく。斎藤さんがカフェに誘ってくれてよかった。本当はもうあの場にいるのが精いっぱいでどうしていいのかわからなかったのだ。ジュースを口にして頭を冷やしている私をみて斎藤さんはそっと口を開いた。
「ねえ鈴谷さん。よかったら鈴谷さんの悩み聞かせてくれないかな」
「え?」
「出会ったばかりなのに何を言っているんだとか思われそうだけれど、初めて会ったからこそ言えることもあると思うんだ。それに、鈴谷さんなんだか難しい顔していたから」
出会ったばかりの斎藤さんに悩みを聞いてもらう。どうしよう、でも確かに斎藤さんはたぶん和也のことを知らない。だから奈緒に相談するよりも恥ずかしくはないかもしれない。それに今日の斎藤さんを見ると化粧品とかにも詳しそうだ。
そう考えた私はジュースを飲みながら花火大会デートについて話をした。好きな人がいてデートに誘えたこと、そのために精いっぱい慣れないおしゃれをしたいこと、でも化粧品やヘアアレンジなどがわからず困っていること。
斎藤さんは私の話が終わるまで相槌を打ちながら静かに聞いてくれた。そして終わったころにそっか、といったあとこう言葉をつづけた。
「好きな人のために努力したくなる気持ちわかるよ。わたしもそうだから。でも、あれもこれも一度にやったらきっと鈴谷さんが疲れちゃうよ。まずはデートを楽しめるように考えよう」
「楽しめるように……、確かにせっかくのデートだもんね」
斎藤さんにも好きな人がいるんだ、なんて思いつつ話の続きを聞く。まずは浴衣の着付けについてだ。これについては美容院でやってもらうことをはなし、次は髪型についてだ。
最初はおなじく美容院でアレンジしてもらおうかと思ったけれど、今日浴衣とか色々買っていたら思っていた以上にお金がかかってしまった。できればヘアアレンジは自分でやってお金を使わないようにしたい。でも私ができるヘアアレンジでお洒落なものは思いつかない。どうしよう。
「ヘアアレンジが苦手ならこれがいいんじゃないかな。デフトバンっていうんだけれど、簡単につけられて髪の毛まとめられるからおすすめだよ。ここの1階にあるアクセサリー専門店にも売っているし」
「デフトバン?」
そう聞き返す私に斎藤さんはデフトバンで髪の毛をまとめる動画を見せてくれた。なるほど、真ん中にある隙間に髪をくぐらせてそのまま内巻きに巻いていって最後は両サイドをクロスさせればお団子ができあがるんだ。
これは確かに簡単そうだし、見た目もお団子に大きなリボンが付いたみたいで可愛らしい。これなら私にもできるかも! そう思い後で1階にいってみようと決めた。
「それと化粧品なんだけれど、無理にする必要ないいんじゃないかな」
「え?」
「確かに鈴谷さんが化粧して好きな人の前に現れたいのはわかるよ。でも化粧品って安いものでもそろえるとそこそこお金かかるし、練習するのも時間がかかるから」
「それは……、そうだけれど」
「だから、全部をそろえるんじゃなくて一つだけお守り代わりに買っていこう」
鈴谷さん、ついてきてくれないかな。なんて言うと斎藤さんは飲み終わったコップを持って返却口に歩いていく。私も慌ててそのあとを追っていく。斎藤さんってなんだか意外と強引なところがあるんだな、なんて考えて後をついていると先ほどのドラックストアについた。
そこに入っていくと斎藤さんはあるものを手に取って私に見せた。
「これって、リップ?」
「そう、色付きのリップ。綺麗なピンク色に発色するタイプのやつだからそれ塗るだけでもだいぶ印象変わると思うよ。それをお守りにつけていくといいよ」
「お守り……」
色付きリップをぼんやり眺める私に斎藤さんはにっこり笑ってこう言った。
「鈴谷さんの恋が上手くいきますように。私がお願いしたから、きっと叶いますようにって」
「!!」
なんてことのないただの願い事だ。斎藤さんはただの同学年の女の子であって神様ではない。でも、そのお願い事を聞いた時私は勇気づけられたのだ。誰にも言えなかった恋心を聞いてくれて、恋の成就を願ってくれた。その心が嬉しかったのだ。
「ありがとう斎藤さん! 私、それ買ってくるね」
「うん、きっと鈴谷さんに似合うよ」
そうして私はそのリップを買って、そのあと斎藤さんと一緒にデフトバンを見て買うことで買い物は終了した。最後にお互い連絡先を交換し合って斎藤さんとは別れて家まで帰る。
帰りの電車の中、私は和也とメッセージで花火大会の予定を組みながら斎藤さんの恋も叶うといいな、なんて考えていた。