電車なんて使わなかった。たった一駅分と油断した私は数十分前の私を叱る。電車を待つまでいる時間が惜しいなんて思って歩いたのは馬鹿そのものだった。普段、運動しない体は10分も歩けばふくらはぎがパンパンになり足が重たくなってしまう。それでも目的地は見えずに歩くのは地獄そのものだった。
しかし地獄を乗り越えれば天国が待っている。その言葉は昔から続く励ましの言葉。本当にその通りだった。大きい大学の門が見えた時は達成感があったし、これから私が求めるあの人に会えると思うと悪魔の翼から天使の翼に浄化される気持ちだった。そう思えばもう勝ちは確定している。ふくらはぎの違和感は消え、足は軽くなり、今ならオリンピックに出れる気分だ。
櫻ちゃんが通う大学はオシャレな外装だった。私が通う大学は昔ながらのという言葉が似合う外装と内装。それに比べたらここの大学は近代的な雰囲気溢れる場所に見える。在籍する生徒が沢山歩いていて中に入るのは躊躇ってしまう。その前に、なぜここに来たのかもわからない。覚えているのは合鍵の件を考えていた自分の大学の長い廊下。そこからはただただ歩いていた。
理由も無く来てしまった。なんとも彼女らしい行動だろうか。しかし櫻ちゃんがどこにいるか全く目処がつかない。この大学の地図なんてものも頭には入ってないしどうしたものか。
「何コソコソしてんの?」
考え込んでいると急に後ろから声をかけられて肩が上がってしまった。振り向くと今日会った人。
「み、美湖ちゃん……!」
「ここ大学でしょ?どうしたの?」
「美湖ちゃん!良かった!着いてきて!」
「えっ、ちょっと!七海!」
何故か後ろに立っていた美湖ちゃんは大学の食堂でお昼ご飯を食べた時と同じ格好だったので家には戻っていないのだろう。私は思わず美湖ちゃんの腕を引いて大学の門をくぐり抜ける。
「この後予定ある?」
「えっ、いやないけど。ちょっと引っ張らないで」
「隣で見守ってくれればいいから!」
「話が見えないんだけど!」
「恋人に会いに行くの!でも1人じゃ怖いから着いてきて!」
「なんでよ……」
美湖ちゃんの呆れたような声が聞こえたけれども構わずに腕を引っ張りながら進んでいく。今日、美湖ちゃんを掴むのはこれで2回目だななんて呑気なことを考えながら。
「お願い!後で何か奢るから!あっすみません。今の時間帯ってバレー部は体育館ですか?
……了解です!あの建物ですね。ありがとうございました!」
2人いれば百人力。
1人では絶対道なんて聞けないけど、美湖ちゃんがいるから安心して話しかけられる。その後は持ち前のコミュニケーションを使って会話すれば、通行人の学生さんは快く質問に答えてくれた。美湖ちゃんは私の後ろに隠れながらキョロキョロと周りを見ている。美湖ちゃんが逃げるということは絶対無いだろうけど一応のため腕は掴んだままだった。
大学内の雰囲気にピッタリな外装の体育館の近くに来れば掛け声が聞こえてくる。私が部活をやっていた中学時代を思い出す。櫻ちゃんと接点を持てたのは部活のお陰だった。あの時から櫻ちゃんは身長も高くなってるし、顔もキリッとした顔立ちになった気がする。変わってないと言えばモテモテなところだけかもしれない。あの子は意外といい意味で変化しているんだ。それと比べてしまうと私は何も変わってない気がする。外見も内面も。
「七海、どうかした?」
「へ?何が?」
「なんとなく」
保那くんもそうだけど、美湖ちゃんも人の変化に敏感な気がする。一瞬だけ少し辛い感情に浸っただけで表情の変化を逃さなかった。それとも私がわかりやすいだけなのか。
歩いて行けばどんどん体育館に近づく。掛け声やボールが跳ねる音。そしてシューズが床と擦れ合う音が大きくなる。中学生の時はこの音ばかり聞いていた。この音が鳴るとバレーやってるっていう気持ちになって気合いが入ってたのを思い出す。私達は換気のためか、空いている扉を見つけてそこからこっそりと顔を覗かせる。
「ここにいるの?」
「うん」
「色々な競技の人達がいるけど…」
「バレー部」
「えっ、バレー部?女子バレーしか無いけど」
「ここの大学は男子バレーは無いよ」
美湖ちゃんの質問を簡単に答えながら目立たないように目を光らせる。バレー部が活動しているということは櫻ちゃんもいるはず。しかし沢山の人がゴチャゴチャといて見つけられない。
「うーん。いない…」
「あの、」
「わっ!あっすみません」
「はい!何でしょうか!」
「驚かせてしまってすみません。体育館の二階に観客席あるんで見学はそこでどうでしょうか?ここだと見づらいし、出入りもあるんで」
「そうなんですね!ありがとうございます!美湖ちゃん行こう!」
「う、うん。失礼します…」
屋内の部活の人だろうか。半袖短パンで見えるところの筋肉は程よい青年が、不審者同然の私達に教えてくれた。きっと遠回しに邪魔だと言ったのだろう。しかしあの青年は絶対モテそうな雰囲気だ。櫻ちゃんには全く敵わないけど。
またまた美湖ちゃんの腕を軽く掴んで引っ張っていく。中に入り二階に行くと外で見るよりも広く感じて、人の多さがわかる。観客席の椅子の数も沢山あり私の大学よりも綺麗に整えられていた。
「凄いね美湖ちゃん!めっちゃ綺麗!」
「金持ち大学は違うね…。で、これからどうするの?」
「バレー部が見えるところに座って探す!」
「あまり目立たないようにしてよ」
美湖ちゃんと一緒に観客席の1番端に座る。本来ならば真ん中でよく見えるところに座りたいのだが美湖ちゃんの機嫌が悪くなり帰られてしまったら私は櫻ちゃんに会えないし、一駅分の苦労が水の泡になってしまう。少し見にくいけど我慢して目をまた光らせる。
「結構いっぱいいるね。恋人さんはどんな外見なの?」
「えっとー、短めの髪で黒くて、顔立ちはキリッとしてる人」
「バレー部同じ人達多くない?選手みんな男の人みたい」
「沢山動くから邪魔なんだろうね〜」
「あの人は?点数表の近くにいる」
「あのボブ髪の人?違う」
「えっいや、そっちじゃなくて筋肉がっちりの…」
「あ、もしかしてあれ!」
美湖ちゃんに言われて点数表の近くを見ていると櫻ちゃんらしき人が通り過ぎた。少し短めでサラサラな黒髪。「何か髪の毛やってるの?」って聞いたことあるけど「何もしてないよ」と言われたことがあった。何もしてなくてもサラサラでいい香りがする櫻ちゃんの髪の毛は体の部分で好きなランキング3位だ。ちなみに2位はうっすらできている腹筋。1位はバレーのおかげでできた腕の筋肉だ。細身の体型ながら筋肉はしっかりしていてかっこいい。それを触れるのは私だけの特権だった。
「…………」
「七海どこ?」
「…………」
「七海?」
「…………」
「またか」
その人の横顔が見えた瞬間に確信した。櫻ちゃんだと。今はレシーブの練習をやっている櫻ちゃんは時々汗を拭きながら動いていた。私の目には櫻ちゃんしか輝いて見えない。スポットライトが当てられているのは他でもない櫻ちゃんだ。
「七海」
「はぁー……」
「七海」
「ふふっ」
すると急に左頬が伸びる。見ると美湖ちゃんが軽く私の頬っぺたを摘んで伸ばしていた。急な軽い痛みにびっくりする。
「なにひゅるの!」
「バレー部休憩みたいだよ。会いに行くチャンスじゃない?」
「ほんひょ!?」
「みんな外出たり飲み物飲んでるけど」
「いひょう!」
美湖ちゃんの手を頬っぺたから離して少し摩った後荷物を持って席から立ち上がる。早く櫻ちゃんに会いたいという気持ちで美湖ちゃんの腕を掴むのを忘れているが、美湖ちゃんは後ろからはトコトコと着いてきてくれている。私達は先程、青年に遠回しの注意を受けた扉へと向かっていった。
しかし地獄を乗り越えれば天国が待っている。その言葉は昔から続く励ましの言葉。本当にその通りだった。大きい大学の門が見えた時は達成感があったし、これから私が求めるあの人に会えると思うと悪魔の翼から天使の翼に浄化される気持ちだった。そう思えばもう勝ちは確定している。ふくらはぎの違和感は消え、足は軽くなり、今ならオリンピックに出れる気分だ。
櫻ちゃんが通う大学はオシャレな外装だった。私が通う大学は昔ながらのという言葉が似合う外装と内装。それに比べたらここの大学は近代的な雰囲気溢れる場所に見える。在籍する生徒が沢山歩いていて中に入るのは躊躇ってしまう。その前に、なぜここに来たのかもわからない。覚えているのは合鍵の件を考えていた自分の大学の長い廊下。そこからはただただ歩いていた。
理由も無く来てしまった。なんとも彼女らしい行動だろうか。しかし櫻ちゃんがどこにいるか全く目処がつかない。この大学の地図なんてものも頭には入ってないしどうしたものか。
「何コソコソしてんの?」
考え込んでいると急に後ろから声をかけられて肩が上がってしまった。振り向くと今日会った人。
「み、美湖ちゃん……!」
「ここ大学でしょ?どうしたの?」
「美湖ちゃん!良かった!着いてきて!」
「えっ、ちょっと!七海!」
何故か後ろに立っていた美湖ちゃんは大学の食堂でお昼ご飯を食べた時と同じ格好だったので家には戻っていないのだろう。私は思わず美湖ちゃんの腕を引いて大学の門をくぐり抜ける。
「この後予定ある?」
「えっ、いやないけど。ちょっと引っ張らないで」
「隣で見守ってくれればいいから!」
「話が見えないんだけど!」
「恋人に会いに行くの!でも1人じゃ怖いから着いてきて!」
「なんでよ……」
美湖ちゃんの呆れたような声が聞こえたけれども構わずに腕を引っ張りながら進んでいく。今日、美湖ちゃんを掴むのはこれで2回目だななんて呑気なことを考えながら。
「お願い!後で何か奢るから!あっすみません。今の時間帯ってバレー部は体育館ですか?
……了解です!あの建物ですね。ありがとうございました!」
2人いれば百人力。
1人では絶対道なんて聞けないけど、美湖ちゃんがいるから安心して話しかけられる。その後は持ち前のコミュニケーションを使って会話すれば、通行人の学生さんは快く質問に答えてくれた。美湖ちゃんは私の後ろに隠れながらキョロキョロと周りを見ている。美湖ちゃんが逃げるということは絶対無いだろうけど一応のため腕は掴んだままだった。
大学内の雰囲気にピッタリな外装の体育館の近くに来れば掛け声が聞こえてくる。私が部活をやっていた中学時代を思い出す。櫻ちゃんと接点を持てたのは部活のお陰だった。あの時から櫻ちゃんは身長も高くなってるし、顔もキリッとした顔立ちになった気がする。変わってないと言えばモテモテなところだけかもしれない。あの子は意外といい意味で変化しているんだ。それと比べてしまうと私は何も変わってない気がする。外見も内面も。
「七海、どうかした?」
「へ?何が?」
「なんとなく」
保那くんもそうだけど、美湖ちゃんも人の変化に敏感な気がする。一瞬だけ少し辛い感情に浸っただけで表情の変化を逃さなかった。それとも私がわかりやすいだけなのか。
歩いて行けばどんどん体育館に近づく。掛け声やボールが跳ねる音。そしてシューズが床と擦れ合う音が大きくなる。中学生の時はこの音ばかり聞いていた。この音が鳴るとバレーやってるっていう気持ちになって気合いが入ってたのを思い出す。私達は換気のためか、空いている扉を見つけてそこからこっそりと顔を覗かせる。
「ここにいるの?」
「うん」
「色々な競技の人達がいるけど…」
「バレー部」
「えっ、バレー部?女子バレーしか無いけど」
「ここの大学は男子バレーは無いよ」
美湖ちゃんの質問を簡単に答えながら目立たないように目を光らせる。バレー部が活動しているということは櫻ちゃんもいるはず。しかし沢山の人がゴチャゴチャといて見つけられない。
「うーん。いない…」
「あの、」
「わっ!あっすみません」
「はい!何でしょうか!」
「驚かせてしまってすみません。体育館の二階に観客席あるんで見学はそこでどうでしょうか?ここだと見づらいし、出入りもあるんで」
「そうなんですね!ありがとうございます!美湖ちゃん行こう!」
「う、うん。失礼します…」
屋内の部活の人だろうか。半袖短パンで見えるところの筋肉は程よい青年が、不審者同然の私達に教えてくれた。きっと遠回しに邪魔だと言ったのだろう。しかしあの青年は絶対モテそうな雰囲気だ。櫻ちゃんには全く敵わないけど。
またまた美湖ちゃんの腕を軽く掴んで引っ張っていく。中に入り二階に行くと外で見るよりも広く感じて、人の多さがわかる。観客席の椅子の数も沢山あり私の大学よりも綺麗に整えられていた。
「凄いね美湖ちゃん!めっちゃ綺麗!」
「金持ち大学は違うね…。で、これからどうするの?」
「バレー部が見えるところに座って探す!」
「あまり目立たないようにしてよ」
美湖ちゃんと一緒に観客席の1番端に座る。本来ならば真ん中でよく見えるところに座りたいのだが美湖ちゃんの機嫌が悪くなり帰られてしまったら私は櫻ちゃんに会えないし、一駅分の苦労が水の泡になってしまう。少し見にくいけど我慢して目をまた光らせる。
「結構いっぱいいるね。恋人さんはどんな外見なの?」
「えっとー、短めの髪で黒くて、顔立ちはキリッとしてる人」
「バレー部同じ人達多くない?選手みんな男の人みたい」
「沢山動くから邪魔なんだろうね〜」
「あの人は?点数表の近くにいる」
「あのボブ髪の人?違う」
「えっいや、そっちじゃなくて筋肉がっちりの…」
「あ、もしかしてあれ!」
美湖ちゃんに言われて点数表の近くを見ていると櫻ちゃんらしき人が通り過ぎた。少し短めでサラサラな黒髪。「何か髪の毛やってるの?」って聞いたことあるけど「何もしてないよ」と言われたことがあった。何もしてなくてもサラサラでいい香りがする櫻ちゃんの髪の毛は体の部分で好きなランキング3位だ。ちなみに2位はうっすらできている腹筋。1位はバレーのおかげでできた腕の筋肉だ。細身の体型ながら筋肉はしっかりしていてかっこいい。それを触れるのは私だけの特権だった。
「…………」
「七海どこ?」
「…………」
「七海?」
「…………」
「またか」
その人の横顔が見えた瞬間に確信した。櫻ちゃんだと。今はレシーブの練習をやっている櫻ちゃんは時々汗を拭きながら動いていた。私の目には櫻ちゃんしか輝いて見えない。スポットライトが当てられているのは他でもない櫻ちゃんだ。
「七海」
「はぁー……」
「七海」
「ふふっ」
すると急に左頬が伸びる。見ると美湖ちゃんが軽く私の頬っぺたを摘んで伸ばしていた。急な軽い痛みにびっくりする。
「なにひゅるの!」
「バレー部休憩みたいだよ。会いに行くチャンスじゃない?」
「ほんひょ!?」
「みんな外出たり飲み物飲んでるけど」
「いひょう!」
美湖ちゃんの手を頬っぺたから離して少し摩った後荷物を持って席から立ち上がる。早く櫻ちゃんに会いたいという気持ちで美湖ちゃんの腕を掴むのを忘れているが、美湖ちゃんは後ろからはトコトコと着いてきてくれている。私達は先程、青年に遠回しの注意を受けた扉へと向かっていった。