美湖ちゃんとご飯を食べた後は食堂で解散した。私はもう1限授業があるが、美湖ちゃんは今日の授業は終わったらしい。1人で食堂を後にして大学の長い廊下を歩いて教室まで行く。今頃櫻ちゃんは何をしているのだろうか。この時間帯だからお昼かなぁ。絶対飲むゼリーとかで済ましていそう。最悪食べてないかもしれない。一度気になってしまうとその事が頭を埋め尽くす。メッセージアプリを開いて櫻ちゃんのトーク欄をタップして文字を打ち込むが途中で全て削除する。またお母さんみたいと思われてしまうかもしれないという考えが過りメッセージアプリを閉じた。
教室の中に入れば、ぼちぼちと人はいるがまだ全員は来ていないはずだ。私は端っこの席に座って準備をする。知り合いがいないかなと少しだけ顔を動かして確認すると
「あっ」
「あ！久しぶり〜！七海！」
教室の後ろでグループトークをしていた人が私の方に向かってくる。高身長でモデルのような体型が目立ち、首の少し下に付いている脂肪の塊は私よりも大きくて見ているだけで肩が凝りそうだった。
「久しぶり。神奈月（かんなづき）さん」
「もー、華（はな）でいいのに〜！最近会えなかったから寂しかったよ〜！」
いかにもぬるぬるとした喋り方は油断すると私にまで移ってしまいそうなのは高校生の時から変わらない。
神奈月華。私と同級生で、高校の在籍した3年間同じクラスだった。1、2年の時は存在は知っていたが私とはジャンルの違う世界だったので話すことは無かった。しかし3年になると同時によくある「前も同じクラスだよね」の言葉と共に私に近づいてきた。そこからは勝手に「七海」と呼び捨てにされたり、放課後遊びに誘われたりなどと彼女の波に呑まれながら接してきた。本当はあまり関わりたくない。いくら人懐っこいと言われる私でも疲れる相手とは一緒には居たくない気持ちだってある。でも別に彼女にいじめられたわけでもないし、嫌なことはされてない。ただ私との感覚の違いだ。だから離れるわけにもいかなくて大学生になり、同じ学部にいる今でも表面上仲良くしていた。
「華？その子誰？」
「この子は七海！高校からの同級生！」
「へー、よろしくね。七海さん」
「はじめまして。よろしくお願いします」
後ろからは神奈月さんの友達と思われる2人が顔をひょこっと出した。以前流行った芸のように。その人達も一瞬見ただけで華やかオーラが出ていた。凄いギャルという感じでもなく、お淑やかな雰囲気で裏がありそうに思えてしまう。神奈月さんとも相性の良さそうな悪女だ。私は絶対苦手なタイプ。
「七海〜。こっちに座りなよ」
「えっと…」
「華、私達初対面だから七海さんも緊張しちゃうんじゃない？」
「そうそう。授業に集中出来なかったら私達の責任になるし」
「そう？どうする？七海」
「私はここで大丈夫です。ありがとう」
「りょーかい！じゃあね！まぁ後ろの席にいるけど」
危うく神奈月さん達と隣の席になりそうだったけど、予想悪女の2人のおかげで回避できた。あの3人の中にいるよりも櫻ちゃんと2人で静かに過ごした方がよっぽど良い。気を使わず、落ち着ける櫻ちゃんの隣なら。
後ろからまだチラチラと視線を感じるけど私は振り向かずにノートか、前を見ていた。ふと周りの空気が変わっているのに気付いて少し目線を横にずらすと先程まではまばらな人が今は大人数になっていた。少し息が詰まるような感じはあるけど、そんな事を考えているうちに先生は教室に入ってきて淡々と授業を始める。あの3人の高い声も授業中には静かになっているので私は気にせずにノートに手を走らせた。
1コマ90分の授業が終わりみんな教室を出始める。しかしまだベラベラと机の周りで喋る人達もいた。その中にあの3人も含まれている。私はそそくさと3人に頭を下げながら教室を出て行く。こうすれば忙しいのかと思われて話しかけられる確率は低くなると自分の中で思っていた。また長い廊下を1人で歩く。今日の授業はもう終わった。これからの時間はどうしようか。今は家に帰る気分ではない。かと言って暇を潰す当てもない。櫻ちゃんの家に行って作り置きの料理でも……と思ったけど合鍵は持っていない。櫻ちゃんは多分今日も大学だ。
「っていうか私なんで合鍵持ってないの…？」
長い廊下の端を歩いていた私は立ち止まる。目立たないように近くの壁にもたれて考え始める。
櫻ちゃんと出会って約8年。恋人というポジションに立って約3年。櫻ちゃんが一人暮らしを始めて約半年。私は未だに合鍵を貰っていない。でも私の家の合鍵は櫻ちゃんに渡してある。その時は喜んで受け取ってくれた。その笑顔は今でも鮮明に記憶に残っている。
私は壁から離れてまた歩き出す。何も考えずにただ歩く。長い廊下から階段へと変わりそのまま出入り口に向かう。夏本番まではまだまだだけど少し暑い日差しが私を上から見下す。帽子や日傘なんて持ち歩かない主義だから頭が暑い。少し早歩きで私は向かった。
櫻ちゃんがいる大学に。
教室の中に入れば、ぼちぼちと人はいるがまだ全員は来ていないはずだ。私は端っこの席に座って準備をする。知り合いがいないかなと少しだけ顔を動かして確認すると
「あっ」
「あ！久しぶり〜！七海！」
教室の後ろでグループトークをしていた人が私の方に向かってくる。高身長でモデルのような体型が目立ち、首の少し下に付いている脂肪の塊は私よりも大きくて見ているだけで肩が凝りそうだった。
「久しぶり。神奈月（かんなづき）さん」
「もー、華（はな）でいいのに〜！最近会えなかったから寂しかったよ〜！」
いかにもぬるぬるとした喋り方は油断すると私にまで移ってしまいそうなのは高校生の時から変わらない。
神奈月華。私と同級生で、高校の在籍した3年間同じクラスだった。1、2年の時は存在は知っていたが私とはジャンルの違う世界だったので話すことは無かった。しかし3年になると同時によくある「前も同じクラスだよね」の言葉と共に私に近づいてきた。そこからは勝手に「七海」と呼び捨てにされたり、放課後遊びに誘われたりなどと彼女の波に呑まれながら接してきた。本当はあまり関わりたくない。いくら人懐っこいと言われる私でも疲れる相手とは一緒には居たくない気持ちだってある。でも別に彼女にいじめられたわけでもないし、嫌なことはされてない。ただ私との感覚の違いだ。だから離れるわけにもいかなくて大学生になり、同じ学部にいる今でも表面上仲良くしていた。
「華？その子誰？」
「この子は七海！高校からの同級生！」
「へー、よろしくね。七海さん」
「はじめまして。よろしくお願いします」
後ろからは神奈月さんの友達と思われる2人が顔をひょこっと出した。以前流行った芸のように。その人達も一瞬見ただけで華やかオーラが出ていた。凄いギャルという感じでもなく、お淑やかな雰囲気で裏がありそうに思えてしまう。神奈月さんとも相性の良さそうな悪女だ。私は絶対苦手なタイプ。
「七海〜。こっちに座りなよ」
「えっと…」
「華、私達初対面だから七海さんも緊張しちゃうんじゃない？」
「そうそう。授業に集中出来なかったら私達の責任になるし」
「そう？どうする？七海」
「私はここで大丈夫です。ありがとう」
「りょーかい！じゃあね！まぁ後ろの席にいるけど」
危うく神奈月さん達と隣の席になりそうだったけど、予想悪女の2人のおかげで回避できた。あの3人の中にいるよりも櫻ちゃんと2人で静かに過ごした方がよっぽど良い。気を使わず、落ち着ける櫻ちゃんの隣なら。
後ろからまだチラチラと視線を感じるけど私は振り向かずにノートか、前を見ていた。ふと周りの空気が変わっているのに気付いて少し目線を横にずらすと先程まではまばらな人が今は大人数になっていた。少し息が詰まるような感じはあるけど、そんな事を考えているうちに先生は教室に入ってきて淡々と授業を始める。あの3人の高い声も授業中には静かになっているので私は気にせずにノートに手を走らせた。
1コマ90分の授業が終わりみんな教室を出始める。しかしまだベラベラと机の周りで喋る人達もいた。その中にあの3人も含まれている。私はそそくさと3人に頭を下げながら教室を出て行く。こうすれば忙しいのかと思われて話しかけられる確率は低くなると自分の中で思っていた。また長い廊下を1人で歩く。今日の授業はもう終わった。これからの時間はどうしようか。今は家に帰る気分ではない。かと言って暇を潰す当てもない。櫻ちゃんの家に行って作り置きの料理でも……と思ったけど合鍵は持っていない。櫻ちゃんは多分今日も大学だ。
「っていうか私なんで合鍵持ってないの…？」
長い廊下の端を歩いていた私は立ち止まる。目立たないように近くの壁にもたれて考え始める。
櫻ちゃんと出会って約8年。恋人というポジションに立って約3年。櫻ちゃんが一人暮らしを始めて約半年。私は未だに合鍵を貰っていない。でも私の家の合鍵は櫻ちゃんに渡してある。その時は喜んで受け取ってくれた。その笑顔は今でも鮮明に記憶に残っている。
私は壁から離れてまた歩き出す。何も考えずにただ歩く。長い廊下から階段へと変わりそのまま出入り口に向かう。夏本番まではまだまだだけど少し暑い日差しが私を上から見下す。帽子や日傘なんて持ち歩かない主義だから頭が暑い。少し早歩きで私は向かった。
櫻ちゃんがいる大学に。
