私達はそれからも手を止めずにアルバムを捲る。ちょくちょく飲んでいた炭酸ジュースは後4分の1くらいまで減ってた。一体何枚の写真を使ったのか。たまに似たような写真もあったけど、こんなに撮られているとは思わなかった。特に結婚式の写真は多くて、沢山の角度の写真が何枚も貼られていた。もしかしてこれ全部七海が取ったのだろうか?ストーカー並みの量に私は苦笑いしてしまう。それでも嬉しい気持ちは消えなかった。

「あっ次のページで最後かな?」

私がページを捲るとそこには長い文章が書かれていた。

『影月美湖さんへ

文字が打ちにくいので誤字脱字あったら見逃してください。きっとこれが見つかる頃には俺は貴方の側にいないでしょう。だから、俺の気持ちを全てこのスマホに残して置きます。
まず、いつもここに来てくれてありがとう。影月さんが来てくれると本当に嬉しくなります。沢山の話をする時間が1日の中で1番好きです。最近は七海ちゃんとも仲直りできて可愛い笑顔も増えて、俺も安心してます。俺の笑顔は見せることが難しいけど、影月さんが笑ってくれると俺も笑顔になれます。初めて会った時の固い笑顔とは違い、今は心から笑ってくれてる気がします。俺に心を許してくれていると思うと凄く嬉しくなる。本当にありがとう。
俺は、影月美湖さんの事が大好きです。
急にそんな事言われると混乱してしまうけど、気持ちを聞いて欲しいです。怒るかもしれないけど、付き合った時は好きという気持ちはわかりませんでした。今までも誰かと深入りしたことは無かったからドキドキなんて感情も理解できなかった。それでも影月さんに告白したのには単なる思い出作りとか、ふと思ったからとかそういうのではないです。当時の俺は影月さんの言葉に惹かれました。覚えてないかもしれないけど、最初で最後の恋愛をするならどんな人がいいと聞いたことがありました。何故こんな質問をしたのかはよくわかりません。この時点ではもしかしたら思い出作りという言葉があったかもしれない。そんな俺の質問に影月さんは時間をかけて真剣に悩んで答えを出そうとしてくれていたのは今でも思い出します。影月さんの答えは自分では覚えているかな?あの時、俺に影月さんは壊してくれる人が良いと言ってくれました。理由も何となくしか覚えていませんが、確か価値観や普通を壊して欲しいだった気がします。その言葉を聞いた時俺は死ぬまでに貴方に全てを壊して欲しいと思ってしまった。変な理由だけど、俺が告白したのはこの気持ちが出てしまったからです。
でも、影月さんは俺を壊せなかった。壊さなかったが正しいかな。影月さんは俺の身体も、心も、価値観も普通も、全部肯定してくれた。そんな影月さんを愛おしいと自覚したのは今やっとです。壊して欲しいという望みで付き合ったけど、いつしか壊して欲しくない、死になくないって思うようになってしまいました。でもきっと死ぬ運命は逃れられない。だから俺は死ぬまで貴方の顔を見ます。俺の姿のせいで貴方の素敵な笑顔を壊してしまうかもしれない。ハズレくじを引いてしまった俺はずっと貴方の側には居れない。それでも俺は貴方を愛しています。
俺が死んだら貴方は泣いて俺を忘れることはないでしょう。でももし、これから貴方に好きな人が出来たら俺のことは忘れてください。
最後に一言だけ。
例え影月さんが俺を忘れても、俺は貴方のことは忘れません。永遠に愛してます。

大道保那』


縦書きに綴られた文章は初めて読むものだった。途中から涙が止まらなくなって、何粒も水がアルバムに落ちた。手が震えてアルバムを握る力が無くなる。私はアルバムを置いて後ろを振り返って叫んだ。貴方に届くように。

「保那!保那聞こえる?私は保那が望んでいた壊すことができなかった。そもそも知らなかった。でも、私は保那のおかげて壊れていたものが復元出来たの!友達も、この傷ついた心も。
私はずっと物や関係を壊してきた。でもね?保那と付き合ったら徐々に壊すことが無くなったんだよ?それはきっと保那が私を愛してくれたから。言葉も行動も出来なかったけど、保那の優しい視線と表情が私の心を満たしてくれた。きっと保那が側にいなかったら私はずっと壊すことで情緒を保って、ずっと苦しんでた。
保那、私は貴方を忘れることは絶対にない。もう私の人生の1ページに大きく大道保那って刻まれているから。勿論その隣には大道美湖って書いてあるよ。この先の未来はどうなるかわからない。でも絶対に私は保那を忘れない。自分勝手でごめんね。…そんな私に愛を誓ってくれてありがとう」

髪を風で靡かせながら、保那に向かって私は今出来る精一杯の笑顔を見せた。保那が見てくれていると信じて。
私は保那を壊せず、保那は私を治してくれた。一気に頭の中に保那の沢山の表情が溢れ出してくる。
保那は1人でハズレくじを引いてしまったハズレ人間だ。
私は今まで物を壊し続けて普通が満たされなくなった外れ人間だ。
そんな外れ人間の私は今目の前に居る夫に誓おう。
次、くじを引く時は貴方の手に私の手を添えると。そうすれば一緒にハズレになるから。私は両手を合わせてお願いするように目を瞑った。






開いていたアルバムが風で捲られる。
手紙の次のページに白い紙が挟まっていた。
『この手紙は保那くんのスマホに残されたメッセージです。妹ちゃんが見つけました。最初は真っ先に見せようとしたのですが、別のメモ欄に書いてあった言葉の通りこのアルバムを開いた時に見せることにしました。
美湖ちゃんから保那くんの影が無くなった時に読ませて欲しいと打ち込まれていたよ。

七海より』