流れた涙、1つがテーブルの上に落ちる。そしてまた次々とテーブルの上に点を作っていった。

「こんな話、聞きたくないですよね…。でも………影月さんに決めていただきたい」

お母さんは目に涙を溜まらせながら、それでも真剣に私を見つめて答えを待っていた。何故私に選択を委ねるのか理解できなくて頬に涙を流しながらお母さん目がけて声を荒げる。

「何で…私は部外者です!大道さんと血の繋がりだってありません!ただの、ただの友達です!」

失礼だとかうるさいだとか考えられなかった。言葉の語彙力が失っている中、私は必死にお母さんに主張した。理解できないしそんな大事な選択を任せれるような人ではない。例え大道さんと付き合っていたとしても…私は…

「影月さんは保那のこと好き?」
「えっ?」
「保那の事どう思ってる?」
「…わかりません」
「嘘。思ってること全部言って?私はそれが聞きたい」

お母さんだって泣きたいのに涙を流すことを耐えて、私に優しく問いかける。私の中で何かが切れたように涙が一斉に溢れ出した。

「大道さん、は、優しくて、紳士的で、考え方が大人で、こんな私を好きって言ってくれます。人見知りでぶっきらぼうで、言いたい事も言えずに逃げる私なんかを。そんな私を否定しないでいてくれる。だから私は、大道さんを、愛してます」

顔を覆うことさえ忘れて泣きながら話した。今まで思っていても全部見て見ぬふりをしていた想いが全て外に駆け出した。誰かと付き合っても愛してるなんて言えなかった。むしろ愛情なんて湧いたこともなかった。そんな私は今、大道さんを愛している。
もしかしたら大道さんは私とは同じ位置にある愛情ではない可能性もある。それでも私は大道さんのことを愛おしいと思う。私が思う好きな理由は愛する理由にならないかもしれない。それでもこんなにも胸が苦しくて熱くなるのはきっと、この世界の神様と私達を描くストーリーテラーの悪戯なのだろう。こんな悪戯要らなかった。私が運命を壊す力を持ちたかった。そうすればきっと私達はハッピーエンドを迎えられたはずだ。
壊す快感なんて覚えず、大学で七海と出会って大道さんを紹介されて、私と大道さんが惹かれあって結ばれて、七海も松本さんと仲良く過ごしていて、そんな世界を書きたかった。そんな世界になって欲しかった。
私は気持ちを言って泣くことしか出来ず、気づけば向かい合って座っていたお母さんに抱きしめられていた。私の頭をクシャクシャと撫でながら溜まった涙を流し、鼻を啜り泣いていた。多目的スペースに屯っていた老人達もいつの間にか居なくなっていて、きっと私が声を荒げてしまい退散したのだろう。しばらくの間。西日が差す多目的スペースで私達は泣いていた。