お昼時間がとっくに過ぎた昼下がり。私達はそのままベンチに座ってパンを食べていた。隣からはカレーの香りが漂って私の鼻をくすぐる。一応、七海の食欲がカレーパンは重いと判断した時のためにサラダサンドイッチを買っておいたけど、美味しそうにカレーパンを頬張る七海を見てその必要はなかったと安心する。元々少食でなおかつ現在痩せ細ってる七海は半分くらいしか食べれないかなと思っていたけど今のところは全部食べれそうな勢いだ。私は七海をチラッと見た後自分のサンドイッチをまた食べ進めた。

「最近あまり食べてなかったから凄く美味しい」
「よかった。それで足りる?」
「十分だよ。ありがとう」
「夜もちゃんと食べなよ?痩せすぎだから」
「うん、わかった。食欲が元に戻ったらまた保那くん混ぜてスイーツ巡り行きたいね」
「あっ……」

七海の言葉に力が抜けてサンドイッチの具材として挟まれていたレタスが落ちてしまった。七海はそれを拾ってくれて私はパンが入っていたビニール袋を差し出す。本題がまだだったのを忘れそうになるくらい先程の会話が私にとって大きなことだった。せっかく話せるようになったのだから大道さんの事を正直に言わなくてはならない。勿論嘘をつくなんて事は絶対にしない。いずれ、七海にもその話が行き渡るのだから。

「あの、大道さんのことで話があるの」
「あ!もしかして付き合ったとか?」
「また泣かせちゃうかもしれないけど大道さんのお願いだから…」
「な、何?」
「大道さん、今病気にかかって入院している。ALSって言って筋肉の力が段々と落ちてきて動くのが困難になる病気に。その、大道さんのお母さんが言うにはその病気進行が予想以上に早いらしいの。だからもしかしたら、その……察してほしい」
「いつから…?」
「1ヶ月くらい前。前までは普通に喋れたんだけど今は喋るのも難しくなっている」
「保那くんが…」
「七海、お願い。大道さんに会ってくれない?七海に会いたがっていたから。私、一昨日大道さんにそう頼まれたの。今の大道さんを見るのは辛いかもしれないけど、お願い」
「うん、わかった。会うよ、会うけれどちょっと待って。整理が出来ない…」

いつの間にか食べ終わったカレーパンの袋を握りしめて戸惑う様子を七海は見せた。急にこんな話をされたら誰だってそうなってしまう。それに相手は大道さんだ。もしかしたら私以上に七海は仲が良いかもしれない。私は七海がちゃんと落ち着けるまで待っていた。手に持ったサンドイッチは後3口くらい残っていたけれど、食べる気にもならず袋に閉まった。

「美湖ちゃんはいつ行くの?」
「私はほとんど毎日行ってる」
「今日は?」
「一緒に行く?」
「行く」

七海の気持ちにも整理がついたようで私は立ち上がって鞄を肩にかける。七海もビニール袋を側にあったゴミ箱に捨てて私の隣に並んで歩き始めた。久しぶりに2人で歩くから妙に緊張してしまう。たった2ヶ月くらいの期間でも私達にとっては1年くらいの長さに感じた。私と七海は並んで大道さんが入院してる大学病院へと足を向けた。