どれくらいの時が経っただろう。頭を行き来していた手はいつの間にか肩に移動していることに気づいた。撫でるのか疲れてしまったのかなとボーっとする頭で考える。そんな意識が朦朧としているのは束の間。先程よりも温かい体温と心音に目が開く。思わず顔を動かすと近い距離の大道さんと目があった。

「えっ!?」
「あっ、おはようございます。もしかして最近寝れてないですか?まだ寝ててもいいですよ?」
「私寝てたんですか!?す、すみません!せっかくデートなのに…。それに寄っかかってしまって…離れます!」

まさかデート中に私は眠ってしまっていた。最近は色んなことがあって睡眠時間があまり取れなかったし眠りも浅かったのできっと撫でられた感触で眠ってしまったのだろう。私は大道さんの左側に寄りかかって、自分の左肩には大道さんの腕が回されている状態だった。恥ずかし過ぎて火が出そうな私に対して平然としている大道さん。身体を起こそうとするけど大道さんの手が私の肩に触れ、離れるのを阻止する。

「えっちょっと…」
「可愛い寝顔でしたよ」
「それは忘れてください…!あの大道さん。腕を離して貰えませんか?」
「はい」
「ありがとうございます。すみませんでした…」

「大丈夫ですよ」とニコニコ笑う大道さんは満足そうに手を離した。私は隣に座り直して髪を整える。ついでに恥ずかしさでの暑さを消してくれないかと麦茶も飲んだ。一気飲みしたのでコップの麦茶は空になってしまい私は大道さんにおかわりを頼もうと話しかけた。しかし、私の声は大道さんによって遮られる。

「ゲホッゲホッ、うっ、ゲホッ」
「大道さん!?」
「ごめ、ゲホッゲホッ」

急にむせり返る大道さん。私はびっくりしながらも大道さんの大きくて細い背中を摩る。どうしていいのかわからずに慌てて摩ることしかできない。なんで急にと周りを見ると妹さんお手製クッキーのかけらが大道さんの足元に転がっている。きっとこれが原因だ。私は大道さんのコップを手に持って「飲んでください」と近づけたけど「大丈夫」と首を振って拒否される。数分経って咳も止まり落ち着いた大道さんはぐったりした姿でソファに背を預けた。

「ケホッ、んん。すみません」
「大丈夫ですか?クッキーが詰まってしまいました?」
「ええ…」
「少し水分摂った方がいいかもしれませんよ」
「そうですね。麦茶持ってきます。影月さんのも注いでおきますね」
「あっ私がやりましょうか?」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」

麦茶を注ぎに行こうと立ち上がる大道さんだがソファから身体が離れた瞬間、ガクッと床に膝をついてしまう。小さな悲鳴をあげる私に対して大道さんはそのまま倒れ込んだ。

「大道さん!?大道さん!」
「なんで…」
「救急車、呼びますか!?あっご家族の方は…!」

私が大道さんへの呼び声とどうしたらいいかわからない慌てる声がリビングに行き渡る。目の前に人が、それも自分の恋人が倒れているにも関わらず焦ることしかできない自分に腹が立つ。そんな私にか細い声が聞こえた。

「ごめ、ん」






私達のこの先の展開を知っているのはきっとこの世界の神様と私達を紡ぐストーリーテラーしか知らない。もし、私の言葉が通るのであれば…。私は問いただしたい。
何故、大道さんなのか。
何故、こんな運命なのか。
何故、私達はハズレなのか、と。