「そういえばね。私の恋人の友達の話なんだけど」
「え、、七海恋人いたの?」
「言ってなかった?高校の時からだよ。とても優しくて素敵な人」
「知らなかった」

カレーとご飯をスプーンの上に乗せてミニカレーを作って食べる七海は淡々と恋人発言をする。確かにいてもおかしくない顔立ちだし性格も明るいから納得がいく発言だ。

「どんな人なの?」
「言って良いの?話止まらなくなるよ」
「やっぱりいいや。食べてて」

話が止まらなくなるほど順調な恋愛をしていると理解する。甘々な恋愛をしたことのない私にとっては憧れるシチュエーションだ。惚気話を人に聞いてもらうことは一つの夢でもある。そんな相手はいないのだが。
七海は恋人のことを思い出したのか、少し微笑みながらカレーを食べている。幸せそうだが恋人の回想でお腹いっぱいになってしまうのではないのかと心配になる。カレー皿には半分以上残っていた。

「そうそう。その恋人の話なんだけど」
「聞かないよ」
「恋人の友達の話なんだけど」
「うん。何?」
「その人の趣味が占いなんだって」
「へー、占いね…」

私の目線はカレーに向けたまま話を聞く。七海からは想像しにくい勧誘の話だろうか。初回無料で占えるからってやつ。占いなんて、信じる前に興味がない。いくら良い結果が出たとしてもそれが反映されるとは限らないし、前世とかがわかってしまうのは科学的にどうなんだろうと思ってしまう。占いで騙されるケースだってあるという事だって知っている。もし、勧誘の話だったら断ろう。
私はそう心に誓った。

「それでね、恋人が楽しそうにその人の話をするから私も話してみたの」
「…え?そんな簡単に話したの?」
「ん?うん。恋人と私とその人のグループトークを作って話したんだ」
「へ、へー」

私からしたら爆弾発言で、カレーから目線を一気に七海に向けてしまう。いくら恋人の友達だからと言って簡単に仲良くなろうとする七海のコミュ力を改めて尊敬する。私には理解できない行動だった。ザ・陽キャの七海にとっては容易いことなのか。私は今、陽キャが恐ろしく感じてしまう。

「話してみたら、その人美味しいスイーツのお店とか知ってて!食べ歩きが好きなんだって!」
「えっ、占いは?」
「占いは趣味。好きなのは食べ歩きらしいよ」
「どっちも一緒じゃない?」
「そう?でも占いのおかげで私の恋人と仲良くなって、食べ歩きで私と仲良くなったって感じなの!」
「そうなんだ」
「それでここからが本題!美湖ちゃん、一緒に教えてもらったスイーツのお店行かない?」

私はてっきり占いの勧誘かと思って待ち構えていたのに予想外の話で拍子抜けになってしまう。最初の占いの話は要らなかったのではと思ったが、目の前でキラキラと目を輝かせ私を見ている七海を見ると何も言えなかった。
それに本題にもびっくりする。大学に入ってからの初めてのお誘いだ。それにスイーツとは、いかにも華の大学生らしい。もちろん行きたい。でもここで踏み留まるのが私だ。「私よりも…」とネガティブな考えが過ってくる。

「なんで私?」
「あっ、嫌だった…?」
「嫌じゃない!…大きな声出してごめん」
「大丈夫だよ。美湖ちゃん友達だもん。誘う理由いる?」
「あ、え…?うーんと、ありがとう。行きたい」
「本当!?やった!こちらこそありがとう!」

今の七海のウキウキとした声が通り過ぎるほど、私は感動に浸っていた。高校時代に作った、質より量の友達から誘われるのとは違う感覚に戸惑いはあるが嬉しかった。あの時の経験を踏まえて深入りはしないと思っていたのに「友達」「遊びのお誘い」「スイーツ食べ歩き」のワードに引き込まれてしまう。我ながらチョロかった。
大学初の友達は七海。七海は最初から友達として接してくれてたかもしれないけど、私にとっては今この瞬間友達になった。今なら七海のお願いはなんでも聞いてあげられそうだ。先程感じた占いの怪しさも、授業の時に発症した壊したい欲も忘れてしまうくらい。

「あの、美湖ちゃん!ちょっとお願い聞いて?」
「ん?私にできることならなんでも」
「へへ、ありがとう!もうお腹いっぱいだからカレー食べてくれない?」
「………いいよ」

カレー皿は半分にも到達していなかった。七海のお腹は一体どれほどの小ささなのだろうか。七海を連れてスイーツ巡りはキツイのではないのかと私の中では雲行きが怪しくなってしまった。