「同性同士の恋愛ってどう思います?

顔を上げて大道さんを見た瞬間にそう言われた。思っていた質問とは違くて目を見開いてしまう。大道さんはまたコーラを一口飲んで返事を待つように私を見た。

「えっと…」
「2人のことはどう思いました?」
「特に変だとか嫌だとかは思いませんでした。でも、精一杯応援するか?と言われたらなんとも言えません」
「それは同性同士だから?」
「違います。…いや、本当はそういう部分もあるかもしれません。私の周りにはそういう人居なかったので。……あの、大道さん」
「何ですか?」
「あの2人は人から外れてると思いますか?」
「外れてる?」
「さっき色々あって七海が私達は人の流れから外れたと言ってたんです。何故かその言葉が残ってて…」
「人の流れ、ですか」

ゲーセン内でこんなにも真面目な話をしているのは私と大道さんしか居ないだろう。休憩スペースには幸い私達しか居ないし、機械から放たれる音のおかげで気にする話を気にする人達も居ない。途中途中に自販機に来る人はいるけど片手で数えれる程度だ。それでもこの場所の雰囲気に似合わない表情をしている私達はある意味目立ってしまうのかもしれない。それでも話の内容が複雑なので笑って話すわけにもいかなかった。大道さんがまたまたコーラに口をつけるのにつられて私もお茶を一口飲む。

「俺普通って言葉苦手なんですよね。なんか全てが決まっているというか、教科書通りというのが嫌で」
「そう、なんですか?」
「普通男子なら外でうるさく遊ぶだろう。普通思春期なら異性とはあまり絡まないだろとか。全部俺が過去に言われたことです。…俺は男が嫌いです。だからと言って性同一性障害とかそういうのではないんですけどね。妹関連で色々あって俺以外の周りの男子をクソガキなんて呼んでた時期もありました。
だから嫌なんです。なんでもクソガキと一緒の行動をするのは。でも10人中9人が止まってるのに1人が動いたらその1人は変わり者と言われてしまうのがこの世界です。たぶん、七海ちゃんは『普通』の言葉が頭の片隅にあるのかもしれませんね。松本先輩と付き合った時からそれを消そうとしてたかもしれないけど、周囲が口を揃えていう普通が離れなかったんではないでしょうか?」
「普通の言葉…」
「その単語が嫌いだからと言っても使ってしまう時がありますけどね。やっぱり周りの人が言うから俺も言ってしまう。そう考えると俺自身もクソガキの部類ですよ」

苦笑いした大道さんの言葉を繰り返すように私の中で再生していくと、内容は難しかったけど納得できる部分もあった。私だって「普通は〜」なんて言葉を使う。常識と違う考えをした時にその言葉が口から放たれる。でもその言葉一つで誰かを傷つけているとしたら私はこれまでに何人の人に言葉の傷を負わせたのだろう。大道さんの言葉を借りれば私もクソガキなのかもしれない。

「影月さんを責めてるわけではないので、そこは理解してください」
「はい。ありがとうございます。わかりやすい説明でした」
「そう言ってくれて良かったです。それで影月さんが悩んでいたことは解決できましたか?」
「…あと1つだけ」
「良ければ聞かせてください」
「七海が松本さんに対して依存しているんです。それも過激な。実はさっき………」

悩んでいたことの1つは大道さんの体験談でスッキリとはいかないけどパズルのピースを見つけたくらいの気持ちになり、プチ解決した。後は私自身の答えでピースをはめるだけ。それが出来る可能性は少ないのもまた課題になってしまうが。
そしてもう1つの悩みは依存の事だった。このまま2人とはどう接して行けばいいのか答えが欲しかった。大道さんに先程起こった出来事を話していく。どんどん曇る表情を見ながら私は過去の出来事と決別した数十分前の記憶を辿っていく。今はどこも震えてはいない。それでもあの時の光景は恐ろしく感じる。

「難しいですね…」
「そうですよね。私もどうしていいかわからずにその時は何もできませんでした」
「いや俺もたぶん何も出来ませんよ。いつも笑ってる七海ちゃんが豹変するところは想像が難しいですけど、影月さんの立場になるときっと立ち尽くしてしまう」
「本当なら自分で答えを探すべきなんですけど、何も浮かばない。何かしら思いついてもいいのに…」
「あまり2人のことに口を出さない方がいいかもしれません。七海ちゃんも松本先輩もお互いのことが見えてない状態だろうし…。でも友達としてそれが出来ないんですよね」
「………優しいですね」
「え?」
「本題と離れますけど、否定だけでなく肯定もしてくれる。大道さんに相談して正解でした」
「でも、解決策はまだ見つかってないですよ?」
「そうです。だから解決策私と考えてくれませんか?」
「今、考えてますよ?勿論、2人のことや影月さんのことを考えながら…」
「この前の告白の返事します。大道さんが良ければ隣に居させてください」
「えっ、あっ今?ちょっと待ってください…!」

私の話を吹っ飛ばした言葉を受け取る準備をしてなかった大道さんは慌ててコーラを飲み落ち着かせていた。今は解決策なんてどうでもよかった。ただ、大道さんの温かさと優しさに触れていたかった。そうすれば恐怖なんてない。気のせいだとしてもそう信じたい。

「何故今?」
「…一歩踏み出したかったのかな…?」
「影月さん?」
「何でもないです。タイミングが今かなと思って。それより大道さんの答えは何ですか?」

本当は最悪なタイミングだ。大事な話を逸らして返事をするのだから。でも今思った、大道さんの告白の返事と同時に踏み出せる気がするなんて本心か偽りかわからない気持ちは私の心の中で蓋をしよう。踏み出す利用とも言えるこの気持ちを優しく握られた私の両手の温もりが鍵をかける。好きか知らない。わからない。でも、貴方ならきっと、私の呪いを解いてくれるはず。

「これからよろしくお願いします」
「はい…」

好きと騙したわけではない。少しの可能性に賭けたいから、自信をつけたいから。これから好きになればいい。私が影なら貴方は陽。陽なら影を消し去ってくれるよね?
そう思い私は大道さんに笑顔を見せた。