瓶ケーキを俺の奢りで買った後、2人で近くのショッピングモールに来ていた。本来ならばどこかの休憩場所でケーキを食べたいのだが、妹は絶対に外でマスクを外したがらないだろう。それに相手が嫌やな気持ちになるのをわかっていてやるのはクソガキと同じ位置にいることになってしまう。瓶ケーキは家で食べることにして、今は妹の服をお店で見ることにした。

「お兄ちゃん…」
「俺はケーキ奢ったからな」
「ケッ、わかってるよ」

吐き捨てるように言って妹は持っていた服を返した。服を買ってやれるほど俺は裕福ではない。お金関係はちゃんとしているつもりだ。妹はまた違うお店に向かって歩き出したので後を追いかける。

「お兄ちゃんってさ。よく文句言わないよね」
「お前に文句は沢山言ってるつもりだけど」
「確かにウザい時あるけどさ…」
「おい」
「嘘嘘。普通さ、女の服の買い物なんて飽きるでしょ?大抵の男はどっちがいい?って聞かれてもどっちも似合うとか早く終わらせようとするでしょ。でもお兄ちゃんはそんな事無いなって思って」
「俺も服は好きだし。結構楽しいよ」
「でた女たらし」
「おい」
「そういうのは私じゃなくて恋人に言ってあげなよ〜。作らないの?」
「さぁな」

妹の言うことは一理あった。全くジャンルの違うものを見ていて、それも自分のではなく他の人の買い物を付き合わされて飽きない人の方が珍しい。でも俺はそう思いたくなかった。だから見る視点を変えて、どんな素材を使ってるのかやどこの会社なのかと考えながら見ると楽しかった。これも本や勉強をしているからだろう。ふと前を見ると妹が居なくなっててお店の中を探す。しかし見つからずに俺はお店を出ると向かい側にあるアイスクリームチェーン店で会計をしている妹を見つけた。戻ろうと振り返る時に俺は先程妹が瓶ケーキ屋の前でやったように自分はここに居ると小さく手を上げた。

「お待たせ」
「急に居なくなってて驚いた。てか、ケーキあるだろ?ここで食べるの?」
「これはお兄ちゃんの!」
「は?なんで」
「早く甘い物が食べたくてうずうずしている顔だからね〜。買い物付き合ってくれたお礼と今日連れてきてくれたお礼!」

妹は俺にコーンに乗っているチョコアイスを差し出す。それを受け取り一口食べると甘さが口の中に広がって、同時に程よい冷たさが体に行き渡る。夢中になって食べていると妹の笑い声が聞こえた。

「ああ、ごめん。どうぞ続けて」
「食べる?」
「ううん。大丈夫」
「りょーかい」

2人で近くのベンチに座って俺はアイスを貪り、妹はそれを見ている。

「まさかお前に奢られる日が来るとは…」
「大人になったでしょ」
「そうだな。大人大人」
「本当に思ってる?」
「思ってるよ。最近は色々と楽しそうで安心してるし、心にも余裕が出来てるんだなってわかる」
「ふーん」

照れたような表情を見せる妹を横目にまたアイスを口にする。俺はコーンにアイスが乗ってる場合、アイスを先に片付けて、最後にコーンを食べる人だ。本来なら一緒に食べた方がいいのだがどうにも上手く食べられない。人前でボロボロ溢すなんて恥ずかしいし行儀が悪い気がする。それは妹の前でもそうだった。コーンを口に含み噛んで飲み込もうとするけど、

「ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ」
「ちょ、大丈夫?急いで食べなくてもいいよ。もう買い物ないし」
「すまない…。急いだつもりはなかったんだけど」
「最近よく咳でるよね?」
「ああ。風邪かもしれないな。喉かなんかが調子悪いんだろう。今度医者行く」

勢いよくむせってしまう。最近になって食事中にむせる回数が多くなってきている。食事以外の時は咳は出ないのだが、食べ物を飲み込もうとすると大体はむせる。ゆっくり食べなと家族に言われるけど、急いで食べる必要もないから自分ではゆっくり食べているはずだ。もしかしたら喉が赤くなってるかもしれない。まだ大丈夫と思っていても早く医者に行ったほうが良さそうだ。結局、コーンを半分ほど残して俺達はショッピングモールを後にした。2人で横に並びゆっくりと家に帰る。

「ちゃんと病院行くんだよ?移されたら困る」
「わかってる」

先程の咳を気にしているのか妹は何回も病院の話をしてきた。鬱陶しく感じてきた頃、急に妹は俺が手に持っていた1つの紙袋を取り上げて自分の腕にかける。

「今日は薬飲んで早く寝て」
「なんで急に」
「息切れしてるのわかってないの?」
「は?」

ふと呼吸を意識してみれば息が荒くなっているようだった。妹のようにマスクをしていないし、体力だってそこそこある。それなのに呼吸は安定してなかった。

「そうだな。早く寝て明日病院に行く」
「絶対だよ?」

眉間に皺を寄せて俺を見てくる妹に向けて「わかった」とだけ答えるとゆっくりよりもゆっくりな速度でまた妹と歩き始めた。