今日は最近SNSで見た瓶にケーキが入っている面白い思考のお店に来ていた。2人分のショートケーキを買って外を出ると、こっちだと俺にわかるように小さく手を振るマスクをした妹が立っていた。


瓶ケーキを見た時に自分自身のスイーツ欲が疼いてしまい居ても立っても居られなくなってしまいすぐに予定表を確認した。ちょうど日曜日が空いていて、せっかくだから久しぶりに松本先輩と七海ちゃんを誘おうと思い2人に連絡すると七海ちゃんから

【その日は櫻ちゃんと予定があって…ごめんね!また今度行こう!】

と可愛らしいごめんねスタンプと共に断られてしまった。流石に2人の時間を奪ってしまうのは申し訳ない。俺は大丈夫スタンプをトーク欄に送って次の人のトーク欄を開いた。上には影月美湖の文字。先程と同じようにスイーツを食べるお誘いをする。結果は薄々わかっていたけど、数分後にすみませんの文字が送られてきた。影月さんとはパンケーキのお店の後から何回かスイーツを食べに行っている。七海ちゃんを含めて。だからこの前も和菓子が美味しいお店を見つけて誘ったが、人見知りなのか七海ちゃんがいないと不安らしくて断られてしまった。しかしちゃんと考えると、会って間もない男と2人きりでは緊張するし不安にもなるだろう。そういうのもわかっていたから別に嫌な気持ちにはならなかった。また七海ちゃん同様、大丈夫スタンプを送るとすぐにアプリ公式キャラクターの初期から入っている謝るスタンプが送られてきた。
こうなれば仕方ない。俺は同じ実家暮らしの妹の部屋に行って扉の前に立って話す。

「おーい、日曜日スイーツ食べに行かない?瓶のケーキのやつ」

自分が高校2年の時、1つ下の妹の部屋をノックもせずに開けたことによって大喧嘩したことがある。今となっては非常識だったなと反省しているが、当時は色々とめんどくさい性格をしていたのでしょうがないと言っちゃしょうがないことなのだ。だからこの大喧嘩があったことによって妹の部屋に行く時は用心してノックする。もし機嫌が悪かったら引っ掛かれるだけでは終わらない。そんなことを考えながら返事を待っていると扉が開かれた。

「お兄ちゃんの奢り?」
「はいはい。奢り奢り」
「なら行く。日曜日だね」

いかにもめんどくさそうな目をして扉から顔を覗かせるけど、『奢り』の言葉を聞いた瞬間に嬉しそうな顔をして行くことを了承してくれた。

「今日、暑いから窓開けて換気しろよ」
「はーい」

ニコッと笑って自分の部屋にまた入っていく妹を見てホッとすると同時にやっぱり可愛いなと思う。断じてシスコンではない。俺は自分の部屋に戻ってベッドに腰をかけて壁に飾ってある写真を見る。そこには少年の俺と少女の妹が写って笑っていた。


妹は可愛い系の顔立ちだった。そこら辺の子役よりも可愛らしいくて優しい性格をしている。モテる条件は揃っていた。それなのに妹はモテるどころか人は妹に寄り付かなかった。その理由は鼻の横から右に広がる大きなアザだった。火傷のような跡で皮膚がその部分だけ変色している。これは生まれつきで赤ちゃんの時からあった小さなものが成長していくたびに大きくなっていった。アザの拡大は小学生で終わったが、最終的に頬に大きく変色した部分ができてしまった。そんな妹の姿を見てクソガキ達は黙ってはいない。アザをいじり、感染すると突き放し、酷い時には教室に常備されているアルコール消毒のスプレーを顔にかけられたこともあったらしい。俺だって黙ってはいなかった。1歳年上という権限を使ってクソガキ達を口と睨みで黙らせる。それでもクソガキのクソは取れなくて小学校卒業まで妹はいじめられる日々を送っていた。
中学生になると妹はマスクをし始める。例え風邪気味でなくてもマスクは常に頬を隠していた。先程も言ったが妹は顔がいい。目元は二重で大きいのでマスク生活をしていると男の先輩が寄ってくる。一緒の中学校に居ると、

「3年の先輩がお前の妹狙ってるらしい」

という噂はしょっちゅう耳に入っていた。それでも男は所詮顔だ。給食の時間にマスクを取った姿を見れば熱は体の上下共に冷めていく。そうすると裏切られた気持ちになり、妹の悪い噂を流す。中学校の3年間のうち、妹が通えたのは1年生の2学期の途中までだった。
そんな妹も高校は通信制に通い、今は大学に通っている。アザのことを理解して仲良くしてくれる友達もできたらしい。学校は違えど、妹も充実しているようだった。




だから俺は男が嫌いだ。
俺自身、体も心も男。しかし男が嫌いという意味不明なことを言っているのはわかっている。自分だって嫌いなモノに属していることだってわかっている。でもこればかりは譲れなかった。
大事な妹を傷つけたのはほとんどが男だった。そんな奴らに睨みを効かせてるうちに自分自身が同じ部類にいるのが嫌になってしまい、クソガキ達とは真逆のことをし始めた。
クソガキ達が外でサッカーをするなら俺は教室で本を読む。そのせいで読書賞なんて皆んなの前で表彰された。クソガキ達がイキって

「俺甘いもの苦手なんだよね〜」

と言ったから甘いものを食べ始めた。おかげでスイーツ男子になる。その他にも一緒になりたくなくて、勉強しないなら俺は勉強し、体育が好きなら俺は嫌いになった。今考えると俺も十分ガキだったと思う。でも当時はその方法が1番良いと信じていた。そのことは今に繋がっているスイーツは勿論のこと、本は沢山読んでいるし、勉強にも力を入れている。それに男と関わりたくなくて女の子と話していたらよく言う女心がわかるようになった。1部では女たらしなんて呼ばれたこともあったけど。
けれどもう一度言う。シスコンではない。俺は壁にかけられた写真に向かって心の中でそう言った。