【今日の貴方は発言や態度に気をつけましょう。貴方の何気ない一言が相手を傷つけてしまうかもしれません。その場の状況や相手の気持ちを考えて行動してみましょう。
ラッキーアイテム  和菓子】

駅前のベンチで見た今日の占い結果は信じなかった。私の一個上の先輩、保那くんに教えてもらったオススメの占いサイトを閉じる。大道保那くん。同級生の友達の従兄弟にあたる人で、高校卒業前に「櫻が行く大学に従兄弟いるんだ」と言われてほぼ強制的に保那くんを紹介された。最初は挨拶程度の仲になるだろうと予想していたけど、保那くんのコミュニケーション脳力が高くて沢山話題を話してくれるうちに話、特に占いに興味を持ち始めて今やお互いに連絡を送り合っていた。そして何故か私の方が歳下なのに保那くんは松本先輩と読んでいる。以前、何でその呼び方なのかと聞いてみたら私の言う発言一言一言が先輩のようだからという理由らしい。でも最初はからかって呼んでいたということも付け加えられた。なので私もからかって今まで大道先輩呼びだったのを保那くんと呼んでみると嬉しそうな表情をして「これからそれにして」とこれまた強制的に呼び方を変えられた。保那くん一族は強制的がモットーなのかと思ってしまう。しかし強制的な部分はあるけど友達もそうだし、保那くんもとても優しくてよく人を見ている性格だった。私も保那くんのようになれてれば先輩を傷つけることはなかったのだろうか。いや、それよりもこんなに苦しい思いをしなくて済んだのではないだろうか。もし、私が保那くんだったらこれからする行動は絶対にしないだろう。もし、保那くんにこの先のことを見られたら絶対激怒するだろう。
でも私は保那くんではない。松本櫻だ。
そんな風にアニメのようなセリフを心の中でキメて今日向かう先の方向に歩き出した。


オシャレな街並みを歩いていると普段のスポーツ生活を忘れられる。真新しい住宅街やオフィスビル、意外と沢山あるカフェは私には似合わない光景だった。足を上げて下げるごとにコツコツと綺麗に整備された道の音が心地よい。歩いている途中、スイーツを扱っているお店を見つけてこれから会う人に手土産を持って行こうと私はお店に入っていく。美味しそうな見た目に色んな商品に目がいってしまうが悩んだ末、相手にはフルーツが沢山入ったショートケーキ。そして私はクリームが入った大福を買った。別に占い結果を信じてるわけではない。ただ、これが食べてみたかっただけ。お店を出るとその足で私はまた本来の目的地に歩いていく。心地よい道の音を鳴らしながら。





「本当にこんなのでいいんですか?」
「うん…」

白い外装のアパートの一室。フローリングの床に直に座って相手に体を預けながら私は目を瞑り、一息ついていた。柔らかい感触が私の肌に触れてとても気持ちがいい。
神奈月華。私に最近できた2人目の恋人。悪く言い換えれば浮気相手。しかし2人目の恋人と言った方が私的にも心が軽なるのでそう言っている。


この関係のきっかけは以前行ったバレー部の練習試合後のことだった。現地解散でバス組の子とそのまま帰る子に別れていた。私はそのまま帰る子に属していたのでゆったりと着替えをしたり、片付けをしたりしていた。そんな時、マネージャーの潮﨑さんに呼ばれる。潮﨑さんは私と同い年で今年、私と一緒にバレー部へと入った。高校までは選手としてプレイしていたけど大学ではマネージャーの道を選んだらしい。同い年と言うのもあって私と潮﨑さんはよく喋っていた。そんな潮﨑さんに呼ばれる理由はなんとなく予想はついていた。しかし断る前に腕を引っ張られて仕方なく私は着いて行き、試合会場の体育館の裏手の方に連れられる。途中に小さな子供達が遊ぶ遊具があったり、広い芝生のスペースがあったりと屋外のスポーツができる場所も設置されていた。
潮﨑さんは人目につかない自販機とゴミ箱の側に立って私に向かう。

「ねぇ、今日の試合なんなの?」
「何が?」
「全く集中できてない。たぶん監督やコーチも気づいている。でも最近、何か思い悩んでる感じだから私が何か知ってるかって聞かれたの」
「そう…」
「原因はやっぱり、恋人さん…あの女の人でしょ?」
「違うよ、自分の責任。先輩な訳ない」
「だって今日も、練習も全く集中できてない。いつもなら取れるボールも取れてない!ねぇ、絶対何かされてるでしょ?私に話してよ!あの場で私はやりとりを聞いた。だからわかるの。恋人さんは何かおかしいよ!松本さん、話してよ!」
「違うから。だからもう口出さないで」
「何で…?だって苦しそうな顔してるよ?」
「違う!先輩は何も悪くない!だから放ってほいてよ!」

案の定、潮﨑さんは先輩の話をしてきた。先輩が私の大学に来た時に潮﨑さんと一緒にいて誤解されて、怒鳴ったところを潮﨑さんも見ているし聞いている。確かにそれ以来バレーの調子は下がっている。しかし断じて先輩のせいではない。それなのに潮﨑さんは先輩を悪者にするような言い方をした。私はそれに耐えられなかった。普段、部活で大きな声を出すけれどもそれは掛け声であって怒鳴ったりはしない。そんな私が潮﨑さんに対して怒りを込めた大声を出したため潮﨑さんの目には涙が溜まっていた。けれど私は後悔せずに睨みつけた。潮﨑さんは歯を食いしばって後ろを向いて私の前から立ち去る。ホッと一息つく暇もなく私は声を発した。

「誰?」

潮﨑さんと話している途中に人の気配がしていて気になっていた。その気配はずっとあって立ち聞きしているとわかったまま私は潮﨑さんを怒鳴った。
体育館の古い壁から出てきたのは謝罪の言葉を述べながら頭を下げている女性だった。