「私、松本選手がバレーをしている姿が大好きです!だからそんな悲しそうな顔しないでください…」
「えっ?」
「あっ、えっと…ああもう!
去年松本選手を見た時からずっと応援しています!私が嫌いな朝を迎えられるのも、大学に行けるのも、友達と共通点ができるのも、全部松本選手のおかげなんです!だから、その、私の我儘を聞いてくれるんだったらバレー続けて欲しいです!沢山松本選手にファンがいるけど、私がファン第一号だって言えるようにもっと応援しますから!」

オタクの早口は相手に効果絶大だ。良い意味だと嬉しく思われて、悪い意味だとキモくて引かれる。そう教えてくれたのは2次元オタクの月花だった。言った本人もたまにアニメイトに行くと暴走するけど私と茉莉は引く事はなかった。そんなオタクの早口を私が繰り出す日が来るなんて信じられない。頭の中に次に言う文章がどんどん湧き出てきて、処理できないで思ったことを全て口に出してしまった。全てが処理された時には早口は終わっていて少しだけ息切れのような呼吸になっている。我に返った私は顔から火、いやマグマが出るくらいに熱くなっていた。この後何を話せば良いのかわからずに下を向きながら口を金魚のようにパクパクと動かしてしまう。すると私よりも上の方から鼻をすする音がして思わず頭を勢いよく上げる。勢い良すぎてくらっとしたけど、私の目に映る光景が全てをかき消し動かした。



やってしまったのだ。
10センチの身長差がまるで理想のカップルのようだった。しかし私の腕に閉じ込められた彼女は小さく感じた。周りは誰もいないから彼女が声を殺して泣く音しか聞こえない。この世界には私達しかいない。そんな感覚だった。
私は荒ぶる心音を無視して彼女を抱きしめる力を強くした。頭を彼女の胸に押し付け、右手を高い腰に回し、左手をすらっとした背中に添えて時折撫でながら。彼女は私を包み込むように引き寄せた。耳元に顔が来て彼女の息遣いが当たる。それに反応してしまう私の身体はおかしかった。
今まで私は男を飴のように舐めてきた。味に飽きたら容赦なく噛み砕いた。たまに噛み砕く前に逃げられたこともあったけど。だから慣れてるはずだった。恋愛という飴玉に。なのに、なのに私は今、こんなにもドキドキして息遣いや香りにクラクラしている。恋愛は飴玉ではなかった。そう実感した瞬間が今訪れる。

彼女は私の頭を撫でた後、頬を手で包み込む。
彼女は少し屈み、私は少し背伸びをした。
お互いの体温が一つになった時、暖かいはずなのに私はなぜか寒気がした。
その正体はわからない。バレーボールは転がっていき、近くの壁にぶつかって止まったまま。それでも私達の唇は離れなかった。