なんでも足りなかった。
現在大学生の影月美湖(かげつきみこ)がそう自覚したのは高校生の頃。いくら友達を作ろうともバイトでお金を稼ごうとも何かが満たされない。だから、恋人を作ってみた。しかし相手に重いと言われ別れた。趣味を無理矢理作ってみた。アニメやゲームに手を出したが2日で終わった。


そんな時、やっと心を満たす出来事があった。私は実家の自分の部屋で勉強しながら飲み物を飲んでいた。狭い机では教科書とノートを広げるだけで埋め尽くされてしまう。すると少し教科書をずらした拍子に飲み物が入っていたマグカップが落ちてしまった。勿論、少ない中身だったが床に溢れて広がる。普通ならば絶望感に浸ってしまうだろう。だって床の一部はびしょ濡れなのだから。しかし、私に襲ってきたのは絶望ではなく快感だった。中身が広がったところではない。マグカップが落ちた衝撃で割れてしまったところだ。今は桃太郎が桃から出てくるような感じで真っ二つに割れている。それを見つめながら、突然きたスッキリとした気持ちを確かめるべく私はもう一度マグカップを顔の高さまで持って行き落としてみた。


間違えない。


重いものが消えたかのように心も体も軽くなる。まるで空を飛んでいるような感覚。マグカップは何個かの破片に変わっていた。でも辛くない。苦しくない。新しい自分に生まれ変わった感じは大学生になった今でも覚えている。


その日から私は物を壊す癖がついてしまった。最初は壊すとこに抵抗感があって要らなくなった紙を破るところから始まった。しかしそんな生ぬるいことではマグカップを割った時のような快楽は味わえない。私は快楽を求めて、紙から小物、少し大きめの物と壊すことはエスカレートしていった。

ガチャン
パリン
グシャ

そんな無機質な音を立てて、崩れて壊れるのがたまらなく好きだ。落とす前のドキドキ感。衝撃でバラバラになる音。床に散らばる破片。全部が私を興奮させた。

「はぁ、はぁ、はははっ」

何かを壊せば楽になる。私が1番強いと思える。物や作った人達には申し訳ない気持ちはある。けれど、やめられない。私は何かある事に物を壊す。これは中毒だった。