「安心していい。たしかに鈴鹿は鬼の血を引いたあやかしに近い存在だが、妖力が高いだけの人間だ。だがそれは、自分を守る力がないとも言える」

 安心したそばから不安がかき立てられる。人間で良かったと思ったのに、自分を守る力がないのならどうすればいいのだろう。
 そもそも彼の話をどこまで信じていいのか。鈴鹿は仕方なく、最初に彼が言った「あやかしがいる前提」という言葉で納得することにした。

「そして、鬼の血を引く子どもはほかのあやかしに比べても、妖力が非常に高い。一部の悪しき鬼たちにとっては邪魔であり、極上の餌になる」

「邪魔? 餌? どういうことですか? 私、今までこんな風に狙われたことなんて一度もなかったんですけど」

 インターフォンも電話も、始まりは数ヶ月ほど前からだ。
 自分を守る力がないのなら、とうにその極上の餌とやらになっていたはずではないのか。

「それは、鈴鹿が十八の誕生日を迎えたからだ。人間の年齢で十八になると妖力はどんどん強まり、三十を過ぎると弱くなっていく。これから先、悪しき鬼たちの格好の餌になる。狙われることは今よりずっと増えていくぞ」

「餌……」

 ばりばりと頭から食べられてしまうのだろうか。驚きすぎて、心が受け入れることを拒絶してしまう。

「大丈夫。心配することはない。まずは、俺自身のことを少し話そう。俺は天狗一族の総帥。この姿はもちろん仮で、人間ではない」

「天狗……って、本当にいたんですね」

「ここにいる那智も一族の分家で、俺の部下だ。つまり天狗だな」

「那智がっ!?」

 嘘でしょう、と大きな声を上げると、那智は申し訳なさそうに頷いた。
 那智が天狗だと聞かされても、那智は那智であり、鈴鹿にとってそれ以外の何者だとも思えない。
 感想としては、天狗のわりに鼻が低いな、くらいである。
 鈴鹿の表情でそれが伝わったのか、那智の顔が目に見えて安心したように変わった。

「俺たち天狗一族は、この国の守護を担当している。悪しき鬼が入ってこられないように結界を張る役目を負っているんだ。だが、あやかしが人間と交配を繰り返していった結果、ここ百年ほど妖力が常に足りない状態が続き結界が弱まっている」

 まるで電力不足みたいな言い方だな、と不謹慎な感想を抱きながら鈴鹿は頷いた。

 そういえばテレビでここ百年ほど犯罪者が増加傾向にあると報じられていた。
 それも悪しき鬼と関係があるのだろうか。結界が弱まっている結果、悪しき鬼が入ってきてしまっているのだとしたら。

「弱まった結界から、悪しき鬼が次々と入ってきては、人間に取りついている。鈴鹿を不安にさせているインターフォンも電話も、人間に取りついた悪しき鬼の仕業だ」

(悪しき鬼とか……アニメの話みたい)

 現実とは思えない。たしかに人間の仕業でなければいいと思っていたが、自分が想像していた以上の出来事にどう反応していいかわからなくなる。