「はぁ……そうなんだ」

 突然、怪奇現象の話からあやかしの話に移り、鈴鹿はついていけず首を傾げた。
 インターフォンや電話があやかしのせいだと言いたいのだろうが、なにを根拠に。
 鈴鹿だってそう思いたい気持ちは山々だが、そんなもの本当にいるはずがないとちゃんとわかっているのだ。

 鈴鹿が信じていないことが伝わったのかもしれない。鈴鹿の目の前に座った天馬が、丁寧な言葉で一つ一つ説明をしてくれた。

「まず、あやかしが存在する前提で話を進めさせてほしい。荒唐無稽で信じられないとは思うが」

「は、はい」

「千年ほど前になるか。里を追われたある鬼の一族がこの世界にやってきた。そして、一人のあやかしが人間の女性と恋に落ちたという話は聞いたことがあるだろう? 以来、あやかしたちは人間に化けてこの世界に隠れ住んでいる、と言われている」

 毎年夏になると、どこからともなく噂になるあやかしの都市伝説は本当だと天馬は言った。正直信じがたい。
 けれど、天馬を紹介してくれた那智のことは信じている。那智は、まるで自分のことのように鈴鹿を心配してくれていた。
 そんな彼がわざわざ天馬と共に鈴鹿に嘘を吹き込み、騙す理由がない。

「人間に化けているあやかしは多くいるが、総じてあやかしは、妖力を使うときに人の姿は保てない。本来の姿になる。そしてその姿はカメラには映らない。俺が、あやかしが存在する前提でと言った理由がわかるか?」

「カメラに……それって」

 インターフォンに映らない理由。それは。

「そうだ。つまり、悪しき鬼がお前を食らおうと、外に呼びだしているのだろうな。鈴鹿……お前は、千年前に存在した強い鬼の血を引いているから」

「鬼……の、血? 千年前?」

 ますます訳のわからない話になってきた。
 どうしよう、那智のことは信じたいが、やはり天馬には帰ってもらった方がいいかもしれない。
 そう思い天馬の隣を見るが、那智は真剣な顔で鈴鹿を見つめながら、痛々しい者を見るような顔をしていた。

(なんで……こんなの普通、作り話でしょ?)

 困惑しっぱなしの鈴鹿を余所に、天馬の話は続く。
 とりあえず話を聞くしかないようだ。

「血はだいぶ薄まってはいるがな。それにおそらく、鈴鹿の両親のどちらかが鬼だったはずだ」

「お父さんかお母さんが、鬼……それって、私は……」

 鈴鹿は愕然としながら呟く。つまりそれは、鈴鹿も人間ではないと言われているに等しい。

 それに、自分の両親のどちらかがあやかしだと言われて、そんなはずはないと反論したいのに、鈴鹿に両親の記憶は残念ながらほとんどない。