自分たちよりも年上なのはわかる。
 ただ、それにしても那智がやたらと天馬に対して丁寧に接しているのは気にかかった。

 美形だからかな、と無理矢理自分を納得させて、グラスに飲み物を注ぎ、部屋に運ぶ。

 すると部屋の前で待っていた天馬が、なぜか階段を下りてきて、鈴鹿の手からグラスを載せた盆を奪い取る。

「俺が運ぶ」

「あ、ありがとう、ございます」

「いや」

 ちょっと怖そう、と思っていたけれど、実は優しい人なのかもしれない。

「どうして部屋の前で待ってたんですか? 中の方が涼しいのに」

「本人がいないのに、女性の部屋に勝手に入るわけにはいかない」

「そう、ですか」

 古風な考え方だな、と思うも、その気遣いは嬉しかった。
 今日初めて会ったばかりの男性を部屋に招くのはどうしても緊張してしまう。

「じゃあ、どうぞ」

 彼の気遣いを無駄にするように、那智は勝手知ったる鈴鹿の部屋で待っていた。
 だが、天馬がグラスを運んでいるのを見るやいなや、その手からグラスを奪い、テーブルに置く。
 その動作はまるで手慣れた執事のようだ。こんな那智は見たことがない。

「で、おかしな現象に悩まされているということだが、具体的に説明を」

 口火を切ったのは、やはり天馬だった。なんだろう、ボス感があるというか、人の上に立つことに慣れているというか。

 彼が話し始めると、自然と耳をそばだててしまう魅力がある。

「は、はい……っ! あの実は……」

 鈴鹿が事情を説明している間、天馬は一言も口を挟まなかった。
 正直、そんなことがあるわけがないとバカにされる可能性も考えていたのだが。

(ちゃんと……聞いてくれるんだ)

 幼馴染みの那智は付きあいも長いため、鈴鹿を信じてくれる。けれど天馬は、今日初めて会ったばかりの人だ。

「わかった。那智に聞いていた通りだな。インターフォンも電話も、間違いなく悪しき鬼のせいだ」

「へ?」

 聞いたことのない単語が耳に届き、鈴鹿は戸惑う。

(アシキオニってなんだろう? 植物の名前かなんかかな?)

 鈴鹿の戸惑いを見抜いたのか、天馬の隣で従者のごとく頭を低くして座っていた那智が助け船を出してくる。

「悪しき鬼というのは、人間が言うところのあやかしだ。人間と同じで、いい奴もいれば悪い奴もいる。悪い方の鬼だな」