この国に伝わる伝承によると、テレビ番組で放送されていたとおり、一人の人間の女性とあやかしの男性が恋に落ち、子孫を残したと言われている。

 あやかしが人間と恋ができる存在なら、さほど恐れる存在ではないのでは、と思ってしまう。まぁ自分がそう思いたいだけかもしれないが。

「俺の知り合いに、そういうの詳しい人がいる。よかったら聞いてみるか?」

「那智の知り合い? そういうのって、超常現象とか怪奇現象とか?」

「ちょっと違うが……ま、近いな。人間の仕業でなければ、その人が解決してくれるはずだ。人間の仕業だとわかったら国家警察を呼ぼう」

 那智は神妙な顔つきでそう言うと、もう寝ろといい鈴鹿をベッドに促した。
 線が細く頼りなさげな印象なのに、こういうときだけは男らしい。鈴鹿にとっては、大事な友人であり、頼れる兄のような存在でもある。

 両親が亡くなってから、鈴鹿を守るようにそばにいてくれた幼馴染みに感謝をしながら、鈴鹿はようやく眠りについたのだった。


 翌日、クラスメイトの天野比子と那智が家にやって来た。
 比子には買い物に付きあってと再三誘われていたが、最近、おかしなことが立て続けに起こるからと断っていた。

 嫌がらせの犯人が外でなにかしてきたらと考えると、外出する気になれない。比子はふてくされていたが、比子を自分の事情に巻き込むわけにはいかない。
 突然命を落とした両親の事件が頭を過り、ますます腰は重くなる。比子には、うちで遊ぶならと納得してもらった。

「すずちゃん、久しぶり~! もう、暗い顔してるなぁ。部屋にいるより、ちょっとは外に出た方が気が紛れるんじゃないの?」

 楽観的な比子の意見に苦笑を返し、先に部屋に来ていた那智と共にテーブルに参考書を広げる。

 べつのテーブルには大量の菓子と飲み物を置いていて、おそらくほとんど勉強は進まないだろうと踏んでいる。

「いただきまーす」

 想像通り、比子は菓子の前に座り、早速とばかりにばりばりとせんべいを貪った。

 比子は女性にしてはかなりの健啖家で、細い身体のどこに入っているのかと驚くほどよく食べる。テーブルに置いた菓子はほとんどが比子のためのものだ。
 本人曰く「この体は燃費が悪い」らしい。いくら食べても太らないなんて羨ましいことだ。

「で、犯人ってまだわからないの? 玄関見ても誰もいないんだっけ?」

「うん……っていうか、何度カメラを見ても誰も映ってないの。だからよけいに気味が悪くって」

「ドアを開けて外に出てみた?」