鈴鹿の両親は、幼い頃に通り魔に襲われ亡くなった。
両親に恨みがあったわけじゃないらしい、ただ誰かを刺してみたかった、という理由で大切な家族の命が奪われたのだ。
幸い鈴鹿は人のいい叔父夫婦に引き取られ、それなりに幸せに生きてはいるが、両親が殺されたという事実はいつまで経っても心の中に暗い影を落としたままだ。
鈴鹿は急いで、隣家に住む那智に電話機能付きの通信端末──SPでメッセージを送った。
SP端末には那智が旅行で買ったというお守りストラップがついている。悪い奴が近づいてこないからいつも持っておけ、と言ってプレゼントしてくれたのだ。
もちろん気休めだとは思う。
それでも縋らずにはいられない。鈴鹿はお守りをぎゅっと握りしめ、自分の肩を抱き締めながら周囲を警戒する。
「鈴鹿! 入るぞ!」
すると、五分も経たないうちに玄関の鍵が開けられて、鈴鹿の名前を呼ぶ声がした。合い鍵で家に入ってきた那智が、玄関先から顔を覗かせる。
「大丈夫か?」
「那智ぃ……大丈夫じゃない……やっぱり、そこに誰もいなかった?」
「あぁ、いないな。周辺を確認しながら来たが、家の前は誰も通らなかった」
ほっとしたせいで、涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。那智は宥めるように鈴鹿の肩にそっと触れて、痛々しい顔をする。
「またインターフォンと電話だろ? 今日もおじさんたち遅いんだよな……やっぱり誰かに来てもらっていた方がいいかもしれないぞ。俺がいつも一緒にいられるってわけじゃないんだから」
「うん……でも、こんな話信じてくれるかな。一人の時しか起こらないし。私も、最初は小学生のいたずらだろうって思ったもん。置いてもらってるのに、変なこと言って迷惑かけたくなくて」
叔父夫妻は病院経営をしており、ほとんど家に帰ってこない。家に一人でいることになる鈴鹿のために家政婦でも雇うかという話も出たのだが、申し訳なくて断ってしまった。
あのとき、甘えておけば良かったと思っても今さらだ。
「まぁ、おじさんたちは非科学的なものは信用しないってタイプだもんな……」
「私だって信じてるわけじゃないけど。悪意のある人間の仕業って思う方が怖いから、オバケだと思おうとしてるだけ」
那智は、鈴鹿の両親が通り魔に襲われた事件を知る一人だ。
ますます気の毒だという顔で見つめられて、言葉に詰まる。同情してほしかったわけじゃない。ただ、怖いのだ。はっきりとわからないことがなによりも怖い。
「原因をはっきりさせたいか?」
「当たり前じゃない。誰かが自分を憎んでるとか知りたくないけど、原因がわからない今の状態よりマシだから」
「人間の仕業じゃなかったら?」
「人間の仕業じゃない方がまだいい」
鈴鹿は小さく頷きながら言った。
両親に恨みがあったわけじゃないらしい、ただ誰かを刺してみたかった、という理由で大切な家族の命が奪われたのだ。
幸い鈴鹿は人のいい叔父夫婦に引き取られ、それなりに幸せに生きてはいるが、両親が殺されたという事実はいつまで経っても心の中に暗い影を落としたままだ。
鈴鹿は急いで、隣家に住む那智に電話機能付きの通信端末──SPでメッセージを送った。
SP端末には那智が旅行で買ったというお守りストラップがついている。悪い奴が近づいてこないからいつも持っておけ、と言ってプレゼントしてくれたのだ。
もちろん気休めだとは思う。
それでも縋らずにはいられない。鈴鹿はお守りをぎゅっと握りしめ、自分の肩を抱き締めながら周囲を警戒する。
「鈴鹿! 入るぞ!」
すると、五分も経たないうちに玄関の鍵が開けられて、鈴鹿の名前を呼ぶ声がした。合い鍵で家に入ってきた那智が、玄関先から顔を覗かせる。
「大丈夫か?」
「那智ぃ……大丈夫じゃない……やっぱり、そこに誰もいなかった?」
「あぁ、いないな。周辺を確認しながら来たが、家の前は誰も通らなかった」
ほっとしたせいで、涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。那智は宥めるように鈴鹿の肩にそっと触れて、痛々しい顔をする。
「またインターフォンと電話だろ? 今日もおじさんたち遅いんだよな……やっぱり誰かに来てもらっていた方がいいかもしれないぞ。俺がいつも一緒にいられるってわけじゃないんだから」
「うん……でも、こんな話信じてくれるかな。一人の時しか起こらないし。私も、最初は小学生のいたずらだろうって思ったもん。置いてもらってるのに、変なこと言って迷惑かけたくなくて」
叔父夫妻は病院経営をしており、ほとんど家に帰ってこない。家に一人でいることになる鈴鹿のために家政婦でも雇うかという話も出たのだが、申し訳なくて断ってしまった。
あのとき、甘えておけば良かったと思っても今さらだ。
「まぁ、おじさんたちは非科学的なものは信用しないってタイプだもんな……」
「私だって信じてるわけじゃないけど。悪意のある人間の仕業って思う方が怖いから、オバケだと思おうとしてるだけ」
那智は、鈴鹿の両親が通り魔に襲われた事件を知る一人だ。
ますます気の毒だという顔で見つめられて、言葉に詰まる。同情してほしかったわけじゃない。ただ、怖いのだ。はっきりとわからないことがなによりも怖い。
「原因をはっきりさせたいか?」
「当たり前じゃない。誰かが自分を憎んでるとか知りたくないけど、原因がわからない今の状態よりマシだから」
「人間の仕業じゃなかったら?」
「人間の仕業じゃない方がまだいい」
鈴鹿は小さく頷きながら言った。