彼は飄々と言ってのける。

 好きなように生きていけばいいと言うが、一日一回は必ず天馬と顔を合わせることになるし、生きていたいなら離れることはできない。

「気長に待つさ。いつか俺に落とされてくれればそれでいい。たとえお前がほかの誰かを好きになっても変わらない。お前は俺が一生守ってやる」

 顎が持ち上げられる。今、結界を張る必要などない。ならばこれは、ただ鈴鹿の気持ちを確かめるためだけのキス。

 抗おうと思えば抗える。けれど、彼の吐息が唇にかかると、まるで金縛りにあったみたいに動けなくなってしまう。どうして、だなんて考えるまでもない。

 唇が触れて、唇に溜まった唾液が呑み込まれていく。

「ん……んんっ」

 いつもすぐに離されていたのに、執拗に口の中を弄ばれて、彼の唾液が注がれた。
 甘くて熱い。身体の奥底に熱が灯る。全身を天馬に染められてしまったように、頭の中が彼でいっぱいになっていく。

(私……好き、なんだろうな……天馬さんのこと)

 恋愛感情を自覚したばかりで気持ちが浮ついている。彼と出会ってから、まだ一週間しか経っていないのに。

「もしも私が、ほかの誰かと結婚しても?」

 だからか、つい試すような問いを口にしてしまう。すると、口元をにやりと歪めた天馬が、鈴鹿の耳元でひときわ艶めかしい声で囁く。

「俺以外の誰と結婚するつもりなんだ。俺に、こんなキスさせておいて」

 鈴鹿の頬が真っ赤に染まる。
 抗えたはずなのに、抗わなかったのは自分自身だ。きゅうっと胸が詰まる。鈴鹿は、とっくに彼が好きでたまらないみたいだ。

「気長に待つって言ったくせに」

「ほかの男にみすみす譲ってやるとは一言も言ってない。それに……お前のこんな顔、ほかの男に見せてたまるか」

 蕩けきった顔を覆い隠すように、強く抱き締められた。天馬の胸に包まれていると、不思議と充足感に満たされる。

(ほかの男……なんて。こんなこと、天馬さん以外とするわけないのにね……)

 自分が好きと言えば、この関係に名前がつくだろう。
 ただ、毎日のようにからかわれることが目に見えてわかっている。

 独占欲の強いこの男とあっという間に結婚なんてことになる可能性もある。叔父と叔母はびっくりして倒れてしまうかもしれない。

(それもいやじゃないけど)

 本当に、天馬と会ってから驚きの毎日だ。