「ほら、言えよ。俺とお前はなにをしてた?」

「キスしてました!」

 真っ赤になった頬を突かれる。やはりからかっていたようだ。
 真剣に話すべき内容なのに、この体勢と彼の愛おしげな顔で全然シリアスにならない。

「ならば、もう想像はつくだろう?」

 にやりと笑われて、さらに顔が紅潮していく。

 からかわれてばかりだから、スルーしていたが、体液であやかしの力が強まる。一度のキスで悪しき鬼が入ってこられないほどの結界を張ることができるのなら。

 たとえば、彼と……したら。一瞬、彼と自分がキス以上の行為に耽る姿を想像してしまい、いたたまれなさに目を逸らす。

「わかったみたいだな」

「もう! からかってるわけじゃないんですか?」

 鈴鹿は真っ赤になりながら天馬を睨む。
目の前の男は平然とした口調で言っているが、鈴鹿の想像通りなら、それは恋人同士がするあれではないか。天馬と自分がなんて。

「からかうものか」

「なら……本当に?」

 たしかめるように尋ねると、天馬がしっかりと首を縦に振った。

「そうだ、俺と番えばいい。総帥である俺の妻となり、その身を捧げれば、弱いあやかしどころか悪意のあるあやかしなど、早々近寄っては来られない」

「その身を捧げるって……頭からばくばく食べたり……」

「アホか。するわけないだろう。俺に抱かれろと言ってるだけだ」

 やっぱり、あっちの方だったらしい。
 鈴鹿は羞恥に身悶えながら、おずおずと天馬を見上げる。

「ですよね」

 一応、言葉を選んでくれたのだと知り、鈴鹿はますますいたたまれなくなる。
 けれど、まだ納得はできない。

「でも、妻にならないといけないのは、どうしてですか? あの、そういう行為をするだけ……なら。妻じゃなくても、あの」

 もちろん、恋人でもない男性とそういうことをするには抵抗がある。
 だが、それにしたってわざわざ結婚する必要はないはずだ。この時代、女性も男性も貞淑さはさほど重要視されていない。

 鈴鹿は恋人関係になった相手がいなかったため経験はないが、性に奔放な人も一定数いるのだ。

「お前な、俺を怒らせたいのか?」