「悪しき鬼を近寄らせないようにするためにな。これを常に持っていたから、天野比子もお前に手を出せなかったんだ。悪しき鬼は弱いあやかしだと言っただろう? 結界の小さな隙間から入れてしまうくらい弱い。だから、インターフォンで呼びだして、鈴鹿がドアを開けた瞬間に食らおうと考えたんだろう。だが、俺が結界を張ってしまったから家にさえ近づけなくなり、強硬手段に出たんだ」

 ずっと守られていたのか。
 自分はそれを知りもせずに、のうのうと暮らしていた。どうして言ってくれなかったのだろう。天馬も那智も。

「十八歳になったらお守りじゃ守りが弱くなる。いずれ俺を頼らざるを得なくなるその日まで、お前には穏やかに過ごしてほしかった」

「どうして……そこまでしてくれるんですか? やっぱり、私が……鬼の血を引いているから?」

「もちろんお前の妖力は魅力的だ」

 そう言われると、胸がつきりと痛む。
 鬼の血を引いている以外に天馬が自分を守る理由などないとわかっているのに、もしかしたらとおかしな期待をしてしまう。

「だがそれ以前に、俺たちはここに暮らす人々を守る役目がある。お前のこともだ。十八になって命を狙われるとわかっているお前に、生きるための選択を自分でしてほしかった。だから那智を護衛につかせ、お守りを渡した」

 天馬は、大切な者を見るような目で鈴鹿を見つめていた。
 彼から目が離せない。どうして自分を守ってくれたのか。生きるための選択とはなんなのか。

「選択って、なんですか?」

「悪しき鬼から命を狙われずに済む方法がある。だが、もしその方法を選ばなくとも、俺はお前をこれからも守っていく。選ぶのはお前だ。それを知っておいてくれ」

「は、はい」

 鈴鹿が頷くと、いい子だとでも言うように、髪を撫でられた。その間も、片方の腕で抱き締められたままで、もうこの体勢にも慣れつつある自分に驚きだ。

「妖力が高いだけの人間である鈴鹿には、悪しき鬼に対抗する術がない。だが、その体液であやかしの力を高めることができる。それはわかるな?」

「あの、うちに張ってくれた結界とか?」

「そうだ。妖力を吸うために、俺はお前になにをしていた?」

 鈴鹿の頬に朱が走る。
 わざと言わせたいのでは、と思ってしまう。実は天馬は、鈴鹿をからかうのが好きなようだから。